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假面恐怖王-挖洞突围
日期:2022-01-30 14:12  点击:284


落盤(らくばん)


 とつぜん、ザーッという音が、どこからか聞こえてきたかと思うと、ふたりの頭の上から、やわらかくなった土が、バラバラと夕立のようにふりそそいできました。
 とっさに、小林君は、ゴリラが手で土をすくって、ふたりにぶっかけているのではないかと思いましたが、そうではありません。もっとおそろしいことだったのです。そのとき、あなの中に大異変がおこったのです。
 ゴーッと、地ひびきのような音が聞こえてきました。そして、やにわに、頭の上から、大きな岩や土のかたまりが、ダダーッとおちてきて、あっというまに、洞くつをすっかりふさいでしまいました。
 落盤です。鉱山のあなをほっているときに、よくおこる、あの大きな土くずれです。鉱山では、落盤のために、何人も、何十人も、生きうめになることがあります。そういう新聞記事が、よく出ているのをごぞんじでしょう。
 天地もひっくりかえるような、おそろしい音と、地ひびきがつづいたあとに、きゅうに、あたりはシーンとしずまりかえってしまいました。
 ああ、小林君たちは、とうとう土くずれの下じきになって、おしつぶされてしまったのでしょうか。
 いや、そうではなさそうです。すくなくとも、すばしっこいポケット小僧だけは生きていました。かれは、おそろしいもの音がおこると、パッと、あなのおくへ身をかわして、たすかったのです。
 ポケット小僧も、小林団長のことがしんぱいでした。さっき、土くずれの音にまじって、なんともいえない、ものすごいさけび声が聞こえました。それは人間とも動物ともわけのわからない、ギャーッというようなさけび声でした。もし、あれが小林団長のさいごのさけびだったとしたら……。
 ポケット小僧はいそいで懐中電灯をつけて、そのへんをてらしてみました。ああ、よかった。小林団長は土の下じきにならないで、ただたおれているだけでした。あぶないところでした。もう五十センチむこうにいたら、おしつぶされているところでした。
 しかし、たおれたまま身動きもしません。ポケット小僧は、また、しんぱいになってきました。もしや、おちてくる岩で頭をうって、死んでしまったのではないでしょうか。
 小僧は、小林君のそばへいって、口に手をあててみました。たしかに、息をしています。だいじょうぶ、命はたすかったのです。でも、ひどいけがをしているのではないでしょうか。
 小僧は、小林君をだきおこそうとしました。しかし、ポケットにはいるような小さな子どもですから、なかなか、だきおこせません。苦心をして、いろいろやっているうちに、小林君が目をひらきました。
「あっ、ぼく、気をうしなっていたのかい。」
「うん、そうだよ。けがはしなかった?」
 小林君は、からだじゅうを、さすってみました。
「なんともないよ。なにかで頭をうったのかな。」
「おやっ、ひたいから血が出ているよ。」
「うん、そうだ。ここをうったんだ。それで、気がとおくなったんだよ。」
 小林君はハンカチを出して、きずをおさえていましたが、ふと、しんぱいそうな顔になって、
「ぼく、どのくらい気をうしなっていた?」
「ちょっとだよ。一分ぐらいだよ。」
「それじゃあ、落盤があってから、時間はたっていないのだね。で、あいつはどうしたんだい。」
「あいつって?」
「きまってるじゃあないか。ゴリラだよ。」
「ああ、あいつかあ。あいつね、土がおちたとき、すごいさけび声をたてたよ。でも、ぼくたちのかくれていた土の山より、ずっとむこうにいたから、うまく逃げたかもしれないよ。あっ、小林さん、ぼくたち、たすかったね。土がくずれて、道がとまってしまって、あいつ、こっちへこられなくなったからね。」
 ポケット小僧は、よろこびましたが、ふたりは、ほんとうにたすかったのでしょうか。ゴリラより、もっとおそろしいことが、待ちかまえているのではないでしょうか。
「とにかく、こっちからは出られないのだから、おくへはいっていくほかはない。おくへいけば、どっかで道がもとにもどって、あなの外へ出られるかもしれない。」
 そこで、ふたりとも懐中電灯をつけて、それをふりてらしながら、あなのおくへすすんでいきました。そして二十メートルも歩いたときです。
「あっ、いけないっ。こっちも土がくずれている。」
 小林君がさけびました。
 あながいきどまりのように、土でふさがれていました。ふるい落盤らしく土がかわいています。柱や横木がくさっているので、ほうぼうに、こんな落盤があるのかもしれません。
 洞くつの両方がふさがっているのですから、二少年は二十メートルほどの長さのあなの中に、とじこめられてしまったわけです。
 もう、たすかるみこみはありません。
「おれたち、そのうちに、息ができなくなるんじゃないだろうか。」
 ポケット小僧は、はやくも、そこに気がついて、心ぼそそうにいいました。
 そうです。二十メートルあるといっても、せまいあなの中です。やがて空気の中の酸素がなくなってしまったら、ふたりは、このまっくらな地の底で死ななければなりません。
「だいじょうぶだよ。懐中電灯の電池がきれるよりは、ながくもつよ。そのあいだに、ぼくたちは頭をしぼって考えるんだ。」
 小林君が、ポケット小僧を安心させるようにいいました。
「おれたち、この土をほって、外へもぐりでるよりないね。」
「うん、だが、いまの落盤は、だめだよ。水でグショグショになっているから、いくらほっても、上から土がおちてくるばかりだからね。うっかりすると、第二の落盤がおこるかもしれない。そして、こんどこそ、ぼくたち、うずまってしまうかもしれないんだぜ。」
「そうだなあ。こまったなあ。」
 ポケット小僧は小さな腕をくんで、さもこまったように、首をふるのでした。
 ああ、いったい、ふたりの運命はどうなるのでしょう。小林君の頭に、なにかうまい考えがうかぶでしょうか。(もし、うかばなかったら……。)


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