電人Mあらわる
すると、木の茂みから、ヌーッと立ちあがったやつがあります。
治郎君はそれを見ると、ギョッとして、動けなくなってしまいました。
そいつは、おとなの一倍半もある、まっくろな、でっかいやつでした。からだは、ロボットのように、鉄かなんかでできていて、顔はガラスのようにすきとおって、恐ろしく大きく、目のところに二つの赤い光が、チカッ、チカッと、かがやいています。鼻も口もなくて、まるいガラスのようなものの中に、小さい機械が、ウジャウジャかたまっているのです。
人間でいえば、口のへんにあたる、こまかい機械が、ピアノのキーのように、カタカタと、動きました。
「エヘヘヘヘヘ……。」
怪物が、みょうな声で笑ったのです。
治郎君は、あまりの恐ろしさに、死にものぐるいで、かけだしました。そして、家の中にころがりこむと、
「おとうさん、たいへんです。庭に、恐ろしいやつがいる。」
と、さけびました。
「なんだ、なんだ。」
おとうさんの遠藤博士が、そこへ、かけつけてきました。そして、庭にへんなやつがいると聞くと、すぐに、懐中電灯をもって、とびだしていきましたが、もうそのときには、どこを捜しても、怪物の姿は見つかりませんでした。
遠藤博士も、二度もこんなことがあっては、もう、笑っているわけにはいきません。すぐに警察に電話をかけて、警官に調べてもらうように、たのみました。
すると、まもなく、近くの警察署から三人の警官がやってきて、博士邸の内外を念入りに調べてくれましたが、なんの発見もなく終わりました。
それがすんでから、博士の応接間に集まった三人の警官のひとりが、へんな顔をして、こんなことを、言いだしたではありませんか。
「先生、その怪物は電気ロボットに、似ていますねえ。」
「え、ロボットというと。」
「ほら、月世界旅行の見世物が、前宣伝に使ったやつですよ。タコのような火星人と、ものすごい電気ロボットが、方ぼうにあらわれて、世間をさわがせたことがあるでしょう。」
「ああ、そうだ。治郎の見た怪物は、新聞にスケッチの出ていた、あの電気ロボットとそっくりですね。だが、その電気ロボットが、どうして、わたしの家へやってくるのでしょう。」
博士は不審らしく、まゆをしかめました。
「あの電気ロボットならば、中に人間がはいっている、つくりものです。怪物でもなんでもありません。広告のチンドン屋と同じようなものですからね。しかし、そいつが、どうして、おたくの庭まで、はいってきたか、また、塀のそとを、うろついていたか。どうもふしぎですね。」
そこで、三人の警官は、
「もしまた、あいつがあらわれたら、すぐかけつけますから、電話をください。」
といいのこして、そのまま、ひきあげていきました。
ところが、そのあくる日の夕方のことです。またしても、恐ろしいことが起こりました。
その夕方、治郎君の妹のやすえちゃんと、おかあさんの美代子さんが、いっしょに、二階への階段の下の、うすぐらい、広い廊下を歩いていたときです。
階段の上から、だれかが、おりてきました。
いまごろ、だれが二階にいたのかしらと思って、ヒョイと見あげますと……、そこに、恐ろしい姿があったのです。
やすえちゃんは、「キャーッ。」といって、廊下にうずくまってしまいました。おかあさんも、やすえちゃんをかばうように、その上に重なって、いまにも気が遠くなりそうでした。
それはあの電気ロボットの怪物でした。いや、そればかりでなく、もっときみのわるいものが、ロボットの首にまきついていました。
それは、あのタコのような火星人です。六本の長い足を、電気ロボットの首にまきつけ、でっかい、まるい頭を、ロボットのプラスチックの頭の上にのせて、大きな目で、うすきみわるく、こちらをにらんでいるのです。
その、なんともいえない、へんてこな姿で、ロボットは、一段一段、階段をおりてきます。
やすえちゃんと、おかあさんは、もとのところに、うずくまったままで、どうすることもできません。いまにも、ロボットが、近づいて、おそろしいめに、あわせるのではないでしょうか。
そのとき、バタバタと人の走ってくる足音がしました。治郎君です。さっきのやすえちゃんのさけび声を聞いて、かけつけてきたのです。
廊下のかどを曲がると、すぐに、怪物の姿が目にうつりました。
「おとうさん、たいへんです。はやく来てください。」
治郎君がせいいっぱいの声で、さけびました。
それを聞くと、怪物は、まだ三段ほど残っていた階段を、パッととびおりて、治郎君のいるのとは反対の方へ、逃げていきます。
そこへ、治郎君のうしろから、おとうさんの博士がかけつけてきました。そして、ロボットがあらわれたと聞くと、すぐに、そこの部屋にとびこんで、警察へ電話をかけるのでした。
「おとうさん、あいつは研究室の方へ、逃げました。ですから、行きどまりです。研究室のほかには木村さんの部屋があるきりです。木村さんの部屋にも、窓に鉄格子がはめてあるから、外へ逃げることはできません。そこで見はっていれば、ふくろのネズミですよ。」
博士が電話をかけて出てくるのを待って、治郎君が言いました。
「うん、そうだ。警官がくるまで、ふたりで、ここで見はっていよう。わしは、ピストルを持ってきたから、もし、もどってきたら、これで、おどかせばいい。」
遠藤博士は、届けずみのピストルを持っていたのです。
ふたりが、そこで見はっていますと、しばらくして、向こうから、こちらへやってくる足音がしました。
さては怪物がもどってきたのかと、ピストルを持って、身がまえましたが、どうも怪物ではなさそうです。なんだかよわよわしい、たよりない足音です。
あらわれたのは、助手の木村青年でした。ねぼけたような顔をして、目をこすっています。
「おお、木村君、あいつはどうした。あのロボットはどうした。」
「え、ロボットですって。」
「じゃあ、きみは、あいつに出あわなかったんだな。それじゃ、まだ研究室にいるかもしれない。行ってみよう。」
博士はさきにたって、研究室に急ぎ、パッと、ドアを開きましたが、中はからっぽです。
「まさか、きみの部屋じゃあるまいな。」
そういって、木村助手の部屋も調べましたが、そこも、からっぽでした。
ああ、怪物は、またしても、どこにも逃げ道のない、行きどまりの廊下から、きえうせてしまったのです。