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带电人M-可疑的声音
日期:2022-01-30 14:19  点击:275

空中の声


 それから一週間ほどたった、ある晩のことです。遠藤博士は学者の会があって、夜おそく、自動車で家に帰りました。
 近くにすんでいる友だちを乗せてあげて、その人をおろしてしまうと、あとはひとりでした。車は博士の自家用車で、運転手も気心の知れた男です。
 車は博士邸に近づきました。かどを曲がると、正面に博士邸のコンクリート塀があります。その塀に車のヘッド・ライトが、パッと、丸い光を投げました。
「あっ!」
 博士は、それをみると、思わず、車の中で、中腰(ちゅうごし)になりました。
 ごらんなさい。コンクリート塀に大きな黒いMの字があらわれているではありませんか。
「おやっ!」
 運転手も、びっくりして、声をたてました。
 車の方向が変わるにつれて、ヘッド・ライトの丸い光は、塀をつたって動きます。すると、Mの字も光といっしょに、動くのです。
「へんだなあ?」
 運転手は、ひとりごとをいって、車をとめると、外にとびだして、ヘッド・ライトを調べました。
「先生、わかりました。ヘッド・ライトのガラスにMの字が書いてあるんですよ。おやっ、中にレンズがとりつけてある。いつのまにだれが、こんないたずらをやりやがったのかな。ただガラスに書いたんじゃハッキリ写らないもんだから、レンズまでとりつけたんです。」
 運転手はMの字の恐ろしさを知らないので、平気でそんなことを言っていますが、博士のほうは、むちでピシッと、ほおをうたれたような気持でした。
 いったい、なんのために、こんなにMの字をあらわすのでしょう。Mはいうまでもなく電人Mの名前ですが、それをなぜ、こんなに見せつけるのでしょう。
 あいつは、木村助手に、五十万円で、発明の秘密を盗ませようとしましたが、木村君は、その手に乗らないことがわかりました。姿をあらわさないで、部屋の中にはいってくるあいつのことです。このあいだ研究室で、博士と木村君とが話し合っていたのを、聞いてしまったのかもしれません。
 そこで、あいつは、第二のてだてを考えているのではないでしょうか。Mの字が、こんなにあらわれるのは、なにか恐ろしいたくらみの、前ぶれではないのでしょうか。
 博士はそんなふうに、想像して、いよいよ、油断がならないと思いました。この博士の考えはあたっていました。電人Mは、じつに恐ろしいことを、たくらんでいたのです。
 博士は家にはいると、すぐ警察に電話をかけました。すると、捜査主任が、写真機を持った刑事を連れてやってきて、自動車を調べ、ヘッド・ライトのガラスのMという字を、写真にとって帰りました。筆跡鑑定(ひっせきかんてい)をするためです。ガラスの指紋も調べましたが、指紋はふきとったらしく、なにも残っていませんでした。
 さて、その真夜中のことです。
 遠藤博士はひとりでベッドに寝ていましたが、ふと気がつくと、天井から、小さな黒いものが、フワーッと、落ちてくるのが見えました。
「おやっ。」と思って、目をはなさないでいますと、その黒いものは、落ちるにつれて、ぐんぐん大きくなってきました。はじめは五センチぐらいだったのが、みるみる、ふくれあがって、三十センチ、五十センチと、大きくなり、博士の顔の真上に、近づいてくるのです。
「あっ、電人Mだっ。」
 博士は、心の中で、さけびました。
 そうです。そいつは、ハッキリと、あのものすごいロボットの形をしていました。顔はすきとおって、その中に二つの赤い光がまたたき、口のへんには、歯のような機械が、ゴチャゴチャと、ならんでいます。
 そいつの形は、ぐんぐん大きくなってきます。一メートル、一メートル五十センチ、……、やがて、ほんものの大きさになって、博士の上にのしかかってきました。
 博士は、ベッドからとびおりようとしましたが、どういうわけか、からだが、すこしも動きません。助けをもとめようとしても、声も出ません。
 そのうちに、電人Mの恐ろしい顔が、グーッと、博士の顔に近づいて、あのプラスチックの冷たい顔が、ピッタリと、博士の(ひたい)にくっついたのです。怪物の目のまっ赤な二つの光が、いなずまのように、博士の目の中にとびこんできました。
 博士は「ワーッ。」と言ってもがき回りました。……そして、目がさめたのです。夢でした。からだじゅう、汗びっしょりです。
「ああ、夢だったのか。」と、あたりを見まわしました。ベッドの(まくら)もとの、青いシェードの卓上電灯が、ぼんやりと寝室の中を照らしています。その光が弱いので、部屋のすみずみは、まっくらです。
 博士はギョッとして、その暗いすみを、みつめました。だれかがいるような気がしたからです。
 ベッドをとびだして、かべのスイッチを押しますと、パッと、天井の電灯がついて、部屋が明るくなりました。なにもいません。真夜中の寝室は、シーンと静まりかえっています。
 しかし、どうもへんです。音もしないし、姿も見えないけれど、なにかが、部屋の中にいるように思われます。
 博士は急いで、部屋をグルグル見まわしました。なにもいません。それでいて、なにかがいるような気がするのです。
 さすがの博士も、恐くなってきました。でも、さわぎたてては、みっともないと思ったので、がまんをして、ベッドにはいりましたが、なかなか、眠れません。
 そのときです。
 どこからか、かすかに、もののきしるような音が、聞こえてきました。
 天井で、ネズミが、なにかをかじっているのかと思いましたが、そうではありません。この音はだんだん大きくなってきました。そして、人間のことばになったのです。
「遠藤君、眠れないようだね。おれの声が聞こえるかね。」
 金属をすりあわせるような、きみの悪い声です。
 博士は黙っていました。声は、それにかまわず、つづきます。
「おれは電人Mだ。おれの持っている電気の力は、オールマイティー(全能(ぜんのう))だ。どんなことだってできるのだ。こうして、姿を見せないで、きみと話すこともできるのだ。
 だが、いくらおれでも、きみの頭の中まではわからない。そこで、おれはきみと友だちになりたいのだ。どうだ、おれの仲間になって、発明の秘密を、打ち明けないか。そうすれば、金はいくらでも手にはいるんだぞ。
 恐ろしい大発明だ。世界をびっくりさせることができる。いやびっくりさせるばかりじゃない、世界を(ほろ)ぼすことだってできる。
 だから、いろんなやつが、きみの発明を買いにきている。その中には外国のスパイもいる。だがきみは、感心にも、だれにも売らない。そこでおれが乗りだしたのだ。おれはオールマイティーだから、どんなことでもしてやる。金がほしくないのなら、ほかの望みを言うがいい。おれにできないことはないのだ。
 どうだ、承知しないか。おれは味方にすれば、たのもしいが、敵にまわすと恐ろしい相手だぞ。きみはどんな目にあうか、わからないのだぞ。さあ、返事をしてくれ。おい、返事をしないかっ。」
「いやだっ。」
 博士はベッドに、あおむけに寝たまま、はげしい声で答えました。
「わしは、この発明を日本のためにしか使わない。いや、人類のためにしか使わない。この発明が悪者の手にはいったら、大変なことになる。そいつは、世界をめちゃめちゃにすることができるからだ。
 わしは、日本の政府にも、まだ知らせてない。うっかり、打ち明けると、恐ろしいことになるからだ。ひょっとしたら、わしは、だれにも打ち明けないで、一生を終わるかもしれない。それほど恐ろしい発明なのだ。
 この大発明を、貴様(きさま)のような怪物に売ってたまるかっ。」
 博士の決心は天地がひっくりかえってもゆるぎそうにはありません。
「ウフフフフ……、さすがは遠藤博士、感心したよ。どこまで、がんばれるか、がんばってみるがいい。おれは、この発明を手に入れるために、ずっとまえから、大きな計画をたてている。きみの思いもよらないような用意がしてある。
 その手はじめに、まず、きみをアッと言わせてやる。いまに見ろ、きみの家のなかに、恐ろしいことが起こるぞ。そのときになって、泣いても、わめいても、もう、とりかえしがつかないのだぞっ。」
 このおどかしを聞いても、博士は歯をくいしばって、黙っていました。もう、こんな怪物と口をきくまいと決心したのです。
「ようし、それじゃあいまに見ろよ。」
 きみのわるい、ふてぶてしい声がしたかと思うと、それっきり、もうなにも聞こえなくなりました。
 姿のない怪物は、部屋から出ていってしまったのでしょう。
 それから三日目の夕方のことです。
 中学一年の遠藤治郎君は、自分の部屋で、机に向かって、本を読んでいました。
 外は恐ろしい嵐でした。庭のたくさんの木の葉が、風に吹きちぎられて、空中に舞いくるっています。
 治郎君はふと、本から目をあげて、前の窓のガラス戸を見ました。
「あっ!」
 思わずさけんで椅子(いす)から立ちあがりました。
 そのガラスいっぱいに大きなMの字が……手で書いたのではありません。たくさんの木の葉が吹きつけられて、Mの字の形になっていたのです。


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