研究室の怪
そのあくる日の朝早く、治郎君は庭に出て、外から、窓ガラスを調べてみましたが、すると、あのふしぎのわけがわかりました。怪人はいつのまにか、そのガラスに、接着剤で大きなMの字を書いておいたのです。それに木の葉がたくさん、くっついたというわけでした。
わかってみれば、なんでもないことですが、あの恐ろしい電人Mが、庭にしのびこんで、そんなことをやったかと思うと、やっぱりきみが悪いのです。
治郎君は、その日、学校へいって、同級の親友、
「明智先生に相談するといい。その前に、ぼくらの団長の小林さんに話そう。きっといい考えがあるよ。」
そして、学校が終わると森田君は遠藤治郎少年を連れて、
明智先生は留守でしたが、小林少年は事務所にいて、こころよく、相談にのってくれました。
「電人Mなら、ぼくはよく知ってるよ。いつか、あいつに日本橋のMビルへ呼びだされたことがある。そして、自動車で、月世界旅行の見世物のところまで追跡したんだよ。あのとき、ぼくは電人Mというのは見世物の広告に使われているのだと思ったが、やっぱり、そうじゃなかったんだね。あの月世界の見世物にだって、どんなたくらみがあるか、しれたもんじゃないよ。
電人Mは、きみのおとうさんの秘密を手に入れるために、きみをかどわかすつもりかもしれない。よしっ、ぼくたちがきみを守ってあげよう。
今夜にも、なにか起こるかもしれない。ぼくは森田君といっしょに、アケチ一号の自動車に乗って、きみの家の回りを守ってあげるよ。いざというときには、無電でパトロール・カーを呼ぶから、だいじょうぶだ。なにか起こっても、きっときみを助けてみせるよ。」
小林少年は、たのもしげに、約束するのでした。
さて、その晩のことです。遠藤博士邸に、またしても、ふしぎなことが起こりました。
もう九時を過ぎていました。研究室に
木村助手は博士を見ると、びっくりしたように、たちどまって、
「あっ、先生、研究室にいらっしゃったのではないのですか。」
と、たずねるのです。
「ちょっと、茶の間へ行っていた。いま研究室へもどるところだ。」
それを聞くと、木村助手はいよいよ、へんな顔をしました。
「おかしいなあ。先生は、いましがた、治郎さんを研究室へ呼んでくれとおっしゃって、ぼくが治郎さんをつれていったばかりですよ。先生が研究室にいらっしゃらなかったとすると、あんな命令をしたのは、だれでしょう?」
「きみは、わしの顔を見たのかね。」
「いいえ、声を聞いたばかりです。ドアをちょっと開いて、中からぼくの部屋へ声をかけられたのです。ですから、先生の顔を見たわけじゃありません。」
「そりゃ、おかしい。すぐにいってみよう。わしは治郎を呼んでこいなどと言ったおぼえはないのだ。」
ふたりは、大急ぎで、研究室の前にかけつけて、ドアを開こうとしましたが、中からかぎがかかっていて開きません。そして、部屋の中からは、治郎君のけたたましい声が聞こえてくるではありませんか。
「いやだっ。きみなんかと、いっしょに行くのは、いやだっ。」
「なんといってもだめだぞ。おれはおまえをつれていくのだ。」
それは、あの聞きおぼえのある、機械のきしるような声でした。電人Mです。電人Mがいつのまにか、研究室にはいって、治郎君をどこかへ連れ去ろうとしているのです。
「だれかきてください。……助けてえ……。」
治郎君のさけび声です。もう、
博士はからだごと、ドアにぶっつかっていきました。二度、三度、ドシンドシンと、ぶっつかっているうちに、ギギギ……と音がして、ちょうつがいがはずれ、ドアが
とびこんでみると、おやっ! 部屋の中はからっぽです。窓の鉄格子も、ちゃんとはまったままどこを捜しても、人間ふたりのぬけだした隙間はありません。
あいつは、ふしぎな魔法で、消えうせたのです。自分だけでなくて、治郎君まで消してしまいました。ああ、いったい、これには、どんな秘密があるのでしょうか。