人形のへや
小林少年たちが見つけた、あやしい家には、明智探偵と中村警部が、五人の制服警官をつれて、かけつけていました。まえにきていた十一人のパト・カーの警官とあわせて、警官のかずは十六人です。小林君から、くわしい話をきくと、すぐに家の中へ、ふみこむことになり、明智探偵と中村警部と小林少年のほかに、八人の警官がつづきました。
のこる八人の警官は、家の表と裏に立ちばんをすることになりましたが、そのうちの三人は、そとのマンホールを見はるのです。怪人がそこからにげだすのを、ふせぐためです。
げんかんの戸は、なんなくひらきました。家の中はまっくらで、ガランとしていて、まるであきやのようです。みんなはスイッチをおして電燈をつけながら、へやからへやと、しらべてまわりました。しかし、どこにも人かげはありません。
ひとつだけ、みょうなへやがありました。どのへやもあきやのように、からっぽなのに、そのへやだけは、いっぱいものがおいてあるのです。
「や、これはどうだ。よくもこんなにあつめたな」
中村警部が、びっくりしたような声をたてました。
それは人形のへやでした。洋服屋のショー・ウィンドーにあるような、男や女や子どものマネキンが、おもいおもいの衣しょうをつけて、二十個ぐらいも立ちならんでいるのです。人形怪人といわれるだけあって、人形をあつめるのが道楽なのかもしれません。
一方には、ガラスばりの陳列だなのようなものが、おいてあって、その中に、いろいろな宝石や金銀のかざりものが、ピカピカと光っています。人形怪人が、ぬすみためたものでしょう。
「あっ、あの人形、うごきましたよ」
小林君が、いちはやくそれに気づいてさけびました。
すそのひらいた洋服をきた、かわいらしい少女人形が、りっぱなせびろをきた紳士人形に、つかまえられて、身もだえしているのです。たしかにうごいているのです。
「ははははははは、人形にばけるとは、うまいかくればしょだったね。しかし、もうだめだよ。そのお面をぬいで、こちらへ出てきたまえ。きみがつかまえているのは、野村みち子ちゃんじゃないかね」
明智探偵がわらいながらいいますと、紳士人形は、あきらめたように、顔につけていたお面をとって、こちらへ出てきました。
「しかたがねえ。こいつが、にげだそうとするものだから、つい、うごいてしまった。おい、おめえもお面をとるがいい」
すると、人形の中から、もうひとり、モーニングをきた男が、お面をとって、おずおずと出てきました。人形にばけていたのは、このふたりの男と少女だけで、あとは、ほんとうの人形でした。中村警部が、ひとつひとつさわってあるいて、たしかめたのです。
「あんた、野村みち子ちゃんだね」
明智探偵が、少女の手をとって、たずねますと、少女はうなずいてみせました。
「こいつらは、あんたのおとうさんをおどかしていたんだよ。わたしは、おとうさんから、そうだんをうけたので、よく知っている。それで、あんたをたすけにきたんだよ」
こうして、野村みち子ちゃんは、ぶじにたすけ出されました。また、怪人がぬすみためた宝石なども、とりかえすことができたのです。
「きみたちふたりのうち、デパートで宝石をぬすんだのは、どちらだね」明智探偵は、ふたりの男をにらみつけて、たずねますと、せびろの男が、にくにくしげに、こたえました。
「おれたちは、なんにも知らねえ。ただのやといにんだよ。首領はとっくに、にげてしまった。おまえさんがたにつかまりっこはねえよ」
うそをいっているようにもみえません。ふたりとも、あまりりこうそうな顔でもありませんから、これがあのすばしっこい怪盗とは、考えられないのです。しかし、もしにげたとすれば、見はりの警官につかまるはずです。まだそんな知らせがないところをみると、どこか家の中に、かくれているのではないでしょうか。