もうだめだ
そのとき、地底の水の中では、井上君とポケット小僧が、おたがいのからだをだきあって、ブクブクと、しずみかけていました。さっき死にものぐるいの声で、どなったので、もう、最後の力がつきてしまったのです。手も足もしびれてしまって、もう水に浮いていることができません。
「井上さん、苦しい。助けて」
ポケット小僧が、井上君にしがみついてきました。
「あっ、いけない。しっかりするんだっ」
しがみつかれたので、井上君もしずみそうになりました。このまま、ふたりが、だきあって、しずんでしまえば、もうおしまいです。なんとしても、がんばらなければ……。
井上君は、いきなり、ポケット小僧のよこっつらを、ピシャッと、たたきつけました。むろん元気づけるためです。たたかれたポケット君は、ニヤニヤとわらいました。もう気がとおくなりかけて、ゆめみごこちなのです。
そして、またしても、井上君のからだに、しがみついてきました。
「あっ、いけない。それじゃ、ぼくもしずんでしまうよ」
しかし、ポケット君には、もうなにも聞こえません。井上君は、コンクリートの壁に手をあてて、がんばりました。でも、つかれきっているので、ズルッ、ズルッと、手がすべって、からだが水の中へ、しずんでいきます。口を水から出しているのが、やっとでした。あっ、いけない。口のすみから、ドッと水が、ながれこんできました。ポケット小僧のおもみで、下へ下へと、引っぱられるからです。
「ああ、もう、だめだっ……」井上君は、水にむせながら、最後の悲鳴をあげました。そして、だきあったふたりは、グングン水の底へ、しずんでいくのです。