しばられた怪人
怪人のすみかから、へいの外のマンホールへ続いている、ひみつの地下道へ、中村警部と十人のおまわりさんが、ふみこんでいきました。宝石どろぼうの怪人が、地下道へかくれたらしいというので、それをとらえるためです。
おまわりさんたちは、手に手に懐中電燈をもっていましたけれども、曲がりくねった地下道ぜんたいを、てらすことはできません。すみずみに、くらやみがあって、なにものが、かくれているかもしれないのです。
そのうちに、ひとりのおまわりさんが、「あっ、あやしいやつがいる」とさけんで、どこかへ、かけだしていきました。
みんなは、そのあとを追いましたが、小べやのいくつもある地下道ですから、どこへはいっていったのか、なかなか見つかりません。あっちへいったり、こっちへいったり、まごまごしているうちに、時間がたっていきました。
「おうい、みんなきてくれ。とうとう、つかまえたぞう」
とおくのほうから、さっきのおまわりさんのどなりごえが、きこえてきました。
「それっ」というので、みんなは、そのほうへ、かけだしました。
さきにたったおまわりさんが、そこへ懐中電燈をむけました。
まるい光のなかに、人形のようなぶきみな顔の男が、おまわりさんと、とっくみあっているすがたが、てらしだされました。
「あっ、あいつだっ。みんな、かかれっ」
中村警部がどなりました。
すると、四、五人のおまわりさんが、かさなるようにして、怪人にとびつき、そこへ、くみふせてしまいました。
カチンという音がして、怪人の両手に手じょうが、かけられました。
「手じょうだけでは、あんしんできない。細引きで、しばりあげるんだ」
警部のさしずにしたがって、しばろうとしましたが、怪人は、きちがいのように、手足をバタバタやって、なにかさけんでいます。しかし、おまわりさんのほうは、おおぜいですから、とても、かなうものではありません。やがて怪人は、手も足も、グルグルまきにしばられて、身うごきもできなくなってしまいました。
それでも、まだ、なにかわめいています。
「ちがう。ちがうったら。お面をとってくれ。このお面をとってくれっ」
やっと、怪人のいっていることがきこえました。「ちがう」とは、なにがちがうのでしょうか。