マンホールから
お話かわって、こちらは、へいの外のマンホールのそばです。
そこには、ふたりのおまわりさんが、しゃがんで、見はりばんをしていました。もし、怪人がここからにげようとしたら、つかまえるためです。
「おい、マンホールのふたが動いたようだぜ」
ひとりのおまわりさんが、ささやくようにいいました。
「あっ、そうだ。動いている。あいつは、ここからにげるつもりだなっ」
ふたりのおまわりさんは、マンホールのふたが開いて、怪人が頭を出したら、すぐに、とっつかまえてやろうと、身がまえをしました。鉄のふたは、ジリッ、ジリッと動いて、すきまがだんだん大きくなっていきます。
そのすきまから、声がきこえてきました。
「だれかいませんか。てつだってください、ひとりでは重いですよ」
なんだかへんです。怪人ならば、おまわりさんに、てつだってくれなんて、いうはずはありません。
ふたりは、鉄のふたに手をかけて、横にずらしました。そして、中をのぞくようにして、どなりました。
「だれだっ、そこにいるのは」すると、中から、
「ぼくだよ。ぼくだよ」
といって、ぬっと、顔を出したのを見ると、その頭には、おまわりさんのぼうしをかぶっていました。怪人ではなくて、なかまのおまわりさんだったのです。
やがて、ふたをぜんぶ開いて、おまわりさんが、はいだしてきました。
「怪人は、いま、このむこうの地下道で、つかまりました。もう、だいじょうぶです。ぼくは中村警部さんの用事で、ちょっと、そこまで出かけます」
そういって、いきなり、かけだしていきました。
「つかまったら、もう見はりにもおよばないな」
「いや、いちど、つかまっても、またにげだすことだってある。やっぱり、ゆだんをしないで、見はっていよう」
ふたりのおまわりさんは、もとのように、そこに、しゃがんで見はりをつづけるのでした。