明智先生バンザーイ
「小林君、そいつのピストルを、よく調べてごらん、たまがはいっているかね」
明智探偵が、みょうなことをいいました。
小林少年は、床におちているピストルを、ひろいあげて、調べていましたが、おどろいたように明智先生の顔を見ました。
「たまははいっていません。このピストルはおもちゃです」
「やっぱり、そうだったか。ぼくの思ったとおりだ。おい、人形怪人君、きみは血を見るのがきらいなんだね。だから、ほんとうのピストルは、持たないことにしているんだね」
明智探偵が、いみありげなわらいをうかべて、怪人の顔を見ました。
怪人はそれを聞くと、ギョッとしたように、明智の目を見かえしましたが、そのまま、だまりこんでいます。
「きみは変装の名人だ。小林君に聞くと、葬儀車の中で変装したそうだが、それを聞いていなければ、ぼくでもだまされるところだったよ。それほど中村警部にそっくりなんだ。
じつにうまい変装だ。こんなに変装のうまいやつは、日本にふたりといないはずだ。しかも、そいつは、おもちゃのピストルをつかった。血を見るのがきらいなんだ。どんなわるいことでもするが、人ごろしだけは、ぜったいにしないという大どろぼう。それもめずらしいね。おそらく、日本にただひとりかもしれない。
ハハハ……、こんどは人形怪人とおいでなすったね。とほうもないことを考え、世間をびっくりさせて、よろこんでいる。そんなすいきょうなどろぼうは、ほかにいないよ。ねえ、二十面相君」
それを聞くと、へやの中は、シーンとしずまりかえってしまいました。野村さんも、小林少年もあっけにとられて、身うごきもせず、明智探偵の顔を、見つめているのです。
ああ、怪人二十面相、名探偵明智小五郎の、怪人二十面相。人形怪人が、あの二十面相だったとは。そのとき、シーンとしずまりかえったへやの中に、わらいごえが、ひびきわたりました。
「ワハハハハ……、明智君、しばらくだったなあ。いかにも、おれは二十面相だよ。そうでないといったって、君がしょうちするはずはない。君のことだから、おれの部下から、おれの正体をきき出しているにちがいない。だが、おれはまだ、きみにつかまるとはいっていないよ。きみはピストルをもっているが、それでおれをうつ気はない。血を見るのがきらいなのは、おれとおなじことだからね。さあ、そこをどきたまえ、おれはここからたちさるのだっ」
二十面相は、明智をつきのけるようにして、ドアのほうへすすみました。そして、へやをとびだそうとしたのですが、なにを見たのか、ギョッとして、たじたじと、あとずさりをしました。
ドアのそとから、ふたりの警官が、ヌーッと、はいってきました。ふたりとも、見あげるような大男です。
このふたりは、明智が野村みち子ちゃんを、ここへおくりとどけるおりに、いっしょについてきた警官でした。いざというときに、あらわれるために、明智のさしずで、ろうかにまちかまえていたのです。
それから恐ろしい、とっくみあいが、はじまりました。二十面相は、柔道三段のうでまえですから、なかなか、てごわい相手です。しかし、こちらはおおぜいです。ふたりの警官と、明智探偵と、小林少年や野村さんもてつだいましたので、五対一です。いくら二十面相がつよくても、五人にひとりでは、かないっこありません。たちまち手錠をはめられてしまいました。
しばらくして、警視庁から、犯人の護送車がやってきました。そのころには、おそろしい水ぜめにあった井上君とポケット小僧も、元気をとりもどして、野村さんのうちへきていました。そして、小林少年といっしょに、げんかんのまえに立って、二十面相がつれていかれるのを見おくったのです。護送車がはしりだしたとき、三人はおもわず、声をそろえてさけびました。
「明智先生バンザーイ、少年探偵団バンザーイ」