今夜の競技は、当番幹事のかたがたのほかは、どなたもご存じないのですから、ちょっと説明いたしますが、世に『闘牛』あり、『闘犬』あり、『闘鶏』あり、あに『闘人』なからんや、という着想から出発したのが、今夜の催しであります。これは『人間狩り』のスリルにも相通ずるものです。警察官は町に放たれた犯罪者を、四方から包囲して狩り出すのが任務であります。これは公許の『人間狩り』です。昔の暴君は、罪人を無人の島に放ち、時間を限って、かれが島のジャングルに隠れ、追っ手の包囲を巧みにまぬがれることができたら無罪放免するという、一種の競技的スリルを考え出したものです。罪人は死か放免かのせとぎわに立ち、限られた時間中、息も絶えだえに逃げまわる。それを狩猟する暴君の家来たち。この『人間狩り』のスリルは、闘牛などの遠く及ぶところではありません。
しかし、今夜の『闘人』は、そういう大がかりな『人間狩り』ではありません。ひとりとひとりの戦いです。牛と人間ではなくて、人間と人間なのです。グローブをはめない拳闘、それにレスリング、角力、柔道、どんな手を用いても反則ではありません。一方がまったく闘志を失って、ふたたび立つことができなくなるまでの戦いです。
この闘人の優勝者には、二十万円の賞金が与えられます。また、皆さまもどちらかの闘士に賭けをなさることができます。つまり、青春の肉弾相うつ闘争と、賭けの勝負との二重のスリルを味わおうというわけです。
では、闘士をご紹介します」
これがおそらく団長の春木夫人であろう。解説を終わって片手で合い図をすると、地下室の入り口の近くにいた当番幹事とおぼしきひとりが、ドアをひらいた。すると、ドアの向こうのやみの中から、ふたりの全裸の美青年が少し面はゆげに円陣を作った覆面の婦人たちのまんなかに立ち現われた。
よくもこんな青年がふたりもそろったと思うほど、顔もからだも理想的な闘士であった。覆面の人々は、しばらくは声を飲んで、みごとな二青年の姿に見とれていたが、やがて、さっきの団長らしい覆面の人が口をひらいた。
「このかたたちの名まえや職業はしばらく伏せておきます。拳闘、レスリング、角力、柔道その他いかなる闘技の専門家でもないことを保証いたします。ごらんのとおり、いずれ劣らぬりっぱなからだの持ち主です。力量もおそらく甲乙がないことでしょう。こちらのかたをかりに『黒』と呼びます。あちらよりも少し皮膚の色が黒いからです。あちらを『白』と呼びます。西洋人のように白い膚をしていらっしゃるからです」
「黒」はまゆが濃く、鼻が大きく、くちびるの厚い好男子であった。目と口辺に不思議なあいきょうがあった。黒いといってもキツネ色の膚がなめらかで、がっしりとした肩と、盛り上がった腕の筋肉、豊かな胸毛、下腹部の筋肉の隆線がギリシャ彫刻のようにみごとであった。
「白」は桃色の膚がなまめかしく、高い鼻、赤くて薄いくちびる、二重まぶたの目が女のように優しく、ふっくらとして、しかもよく締まったしりからももの線が、うっとりするほど美しかった。
「では、どちらかに賭けてください。いま幹事がお申し込みを手帳に控えることにします。皆さまのお名まえをおっしゃってはいけません。いつものとおり、ABCです。覆面のすみに縫いつけてあるアルファベットで、お申し込みください」
幹事が手帳を持って、円陣を一巡した。口々に「黒」「白」の別と賭け金額が告げられた。「黒」への賭け金総計三十四万円、「白」は二十九万円と呼びあげられた。
ふたりの闘士は、この「闘人」には反則というものが何もなく、ただ相手を徹底的にやっつければよいということを、まえもって聞かされていた。今は幹事の闘争開始の合い図を待つばかりである。
合い図があった。
影男-斗者(2)
日期:2022-02-13 23:47 点击:306
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