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影男-斗者(4)
日期:2022-02-13 23:47  点击:317

 見物たちもヘトヘトになっていた。声援の声もかれて、今は小娘のようにさめざめと泣きだすもの、えたいの知れぬたわごとをわめき散らすもの、興奮の極、狂気の様相を呈しはじめた。
 やがて、「白」はじゅうたんのまんなかに、ぐったりと、あおむけに倒れていた。全裸を衆目にさらして、恥もなく倒れていた。「黒」はその足もとに、疲労という彫像のように、うずくまっていた。
 戦いは終わったかと見えた。見物たちも一瞬鳴りをひそめて、哀れな二つの肉団に見入った。静寂があたりを占めた。
 このとき、思いもよらぬ異変が起こった。
「白」が血みどろのからだで、ふらふらと立ちあがったのだ。それは残虐な化けもののように見えた。かれは立ちあがると、見物たちのあいだを、よろめきながら、ドアのほうへ歩いていった。ドアを通りすぎ、暗い廊下へ姿を消していった。
「黒」は視力の弱った目で、その後ろ姿を見やり、自分もものうげに立ちあがった。
「白」は戦い敗れて逃げ出したのであろうか。あとに残った「黒」が勝者なのであろうか。
 それは「アッ」と思うまのできごとであった。ドアの外の廊下のほうから、サーッと一陣の風が吹きつけるように感じられた。そして、そのドアから、赤いものが、鉄砲玉のように飛び出してきた。それは全身血まみれの「白」であった。しかし、その形は人間としては目に映らなかった。あまりに速い速度のために、一つの赤いかたまりとしか見えなかった。そのかたまりが、一直線に「黒」に向かって突進した。
 その勢いで、「黒」と「白」とが一団となって、背後の壁にぶつかった。いやな音がした。ぶっつかって静止したときに、はじめて事の子細がわかった。「白」は最後の力をふりしぼって「黒」の胸に頭突きを試みたのである。「白」の頭が「黒」の胸に突き刺さっているように見えた。「白」が廊下へ出ていったのは、距離を増して速度をつけるためであった。
「黒」の顔色はみるみる青ざめ、壁ぎわにぐったりとすわったまま動かなかった。「白」も折り重なって倒れていたが、やがて、もぞもぞと身動きをはじめた。しかし、「黒」はいつまでたっても動かなかった。もう全身が血にまみれた古布のような色に変わっていた。
 覆面婦人たちは、それぞれの場所にうずくまったまま、放心状態で、このありさまをながめていた。地下室は墓場のようにシーンと静まり返った。
「どうしたの? もうおしまいなの?」
 だれかが、眠いような声でつぶやいた。
「でも、なんだか変だわ。あの人、どうして動かないんでしょう」
 しばらくして、別の眠そうな声がきこえた。
 さすがに、最初立ち上がったのは、団長らしい覆面婦人であった。彼女はよろよろしながら、壁ぎわの「黒」のところへ近より、そのからだにさわったり、脈を見たり、口の前に手をやったりしていたが、のろのろとこちらを向いて顔をぐっと前につき出し、ないしょ話でもするようなかっこうで、
「死んでいる」
 と、ひとこといったまま、そのままの及び腰の姿勢で、いつまでもじっとしていた。


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