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影男-男扮女装(1)
日期:2022-02-14 23:49  点击:294

女装男子


「闘人」に興じていた十数名の覆面婦人は、それを見てシーンと静まりかえってしまった。過失致死である。ほうっておくわけにはいかぬ。このまま逃げてしまうことはできない。だが、警察に調べられたら、彼女らの秘密悪質遊戯団体の存在が知れわたり、地位と名誉を何よりもだいじにしている彼女らの主人たちに累を及ぼし、ひいては彼女ら自身の身の破滅となる。だから、警察にはどうしても知らせてはならない。といって、ここにひとりの青年が死んでいる。このままにしておいたら、恐ろしい殺人罪にもなりかねない。
 十数名の覆面婦人たちは、めいめいにこのことを考えて、心臓もとまるほどの恐怖におののいた。もっと手軽なできごとならば、「どうしましょう」「どうしましょう」と泣き声をかわすところだが、そんな声さえも出なかった。彼女らは失神の一歩手前で凝固していた。分別ありげな団長の春木もと侯爵夫人さえ、うろうろと死人のそばをよろめき歩くばかりで、なんの知恵も浮かばぬ様子であった。
 そのとき、覆面にEという縫い取りのある婦人が、団長の春木夫人のそばによって、なにかしばらく耳うちしていたが、すると団長夫人は、深くうなずいて、一同に向かい、
「皆さん、いま医者をむかえることにしましたから、今夜の幹事のCさんだけのこって、あとのかたは上の応接間に集まってください。それから、この人も」と「白」青年を指さし、「みんなで上へつれていってあげてください。あなた歩けますか」
「白」青年は、泣き笑いのような表情で、うなずいてみせた。
「では、この人に服を着せて、寝室のベッドに、しばらく寝させておいてください。食堂の戸だなの中に何か飲みものがあるでしょうから、飲ませてあげてください。寝室ご存じですわね」
 ひとりの覆面婦人が、「わかっています」といって、青年の手をとった。そして、一同はぞろぞろと廊下に出て、一階への階段をあがっていった。
 あとには、団長春木夫人と、当番幹事のC婦人と、さっき団長に何かささやいたE婦人とだけがのこった。幹事のCは二宮友子という製薬会社社長夫人であり、Eは新興貿易商社社長の夫人で、まだ三十にもならない琴平咲子であることを、団長はよく知っていた。
 Eの琴平咲子は、倒れた「黒」青年の上にかがみこんで、しきりに様子をしらべていたが、絶望の身ぶりをして、
「まったく死んでいます。頭がわれているのです。息もしなければ、心臓も完全にとまってます」
「でも、まったくだめということが、あなたにおわかりになって?」
 団長夫人が不安らしく反問した。
「あたし、そのほうの経験がありますの。どんな名医だって、もうこの人を生きかえらせることはできません」
「でも、あなたは今、医者を呼ぶからといって、皆さんを遠ざけるようにおっしゃったじゃありませんか」
「ええ、呼ぶのです。そして、この人が命をとりとめたように皆さんに発表して、おうちへ帰っていただくのです。そうしないと、おおぜいの会員のことですから、だれの口から秘密がもれるかもしれません。むろん、相手の青年にも、この人が死んだなんていうことは伏せておくのです。安心して引きとらせるのです」
 団長夫人は首をかしげないではいられなかった。あの若くて美しい琴平咲子が、こんなに冷静な、しっかりした人だったのかと、あっけにとられるばかりであった。
「で、あなたはこの死体をどうしようとおっしゃるの?」
「隠すのです。今夜のできごとはまったくなかったことにするのです。そうしなければ、皆さんの破滅じゃありませんか。それで、幹事のCさんに伺いたいのですが、ふたりの青年はどこから連れていらしったのですか。どういう身もとの人ですか」
 Cの二宮友子も、Eのてきぱきした口のきき方におどろきながら、
「この人は浅草で拾ったのです。バーを流して歩く艶歌師(えんかし)です。むろん、知り合いではありません。偶然に見つけて、体格がよくて強そうなので、当たってみたのです。すると、報酬に目がくれて、この人はすぐ承知しました」
「ここへ来たことを、この人の仲間は知っているのですか」
「いいえ、知りません。ひとりだけのとき話したのです。そして、ここへ来ることはだれにもいってはいけないと、かたく口どめしておきました。さっき戦いがはじまるまえにも、念をおして尋ねてみましたが、だれにもいわなかったと、はっきり答えていました」
「なんという名で、どこに住んでいるのです」


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