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影男-小个子的来访(1)
日期:2022-02-16 17:59  点击:245

小男の来訪


 影男は約束をたがえなかった。その翌日午前十時、ひとりの浮浪者のような男が、川波家の庭にはいってきて、なわを解いてくれた。
「きみはゆうべの男の手下かね」
 さるぐつわがとれたとき、良斎の口から最初に出たことばはそれであった。
「手下だって? ぼくはそんなもんじゃありませんよ。この先の銀行の前で日なたぼっこをしていると、変なやつが来て、五百円くれたんです。このうちへ行って、門はあいたままになっているから、裏庭へ行くと、寝巻きを着たここのうちのだんなが、木にしばられているから、なわを解いてやれっていうんです。そうすりゃ、たんまりお礼がもらえるからってね。それで、やって来たんですよ」
 良斎は立ち上がって苦笑いをした。あの黒いクモみたいな男は何者だろう。なんて抜けめのないやつだ。
「そうか。そりゃありがとう。じゃ、こっちへ来たまえ。お礼をあげるから」
 良斎は家にはいって、数枚の紙幣を持ってきて、男に与えた。愚かものらしいその男は、深くも疑わず、それ以上の欲も出さないで、そのまま帰っていった。
 それから数日のあいだ、良斎は悶々(もんもん)として楽しまぬ日を送った。雇い人を全部追い出してしまったので、会社に電話をかけて、家政婦をふたりよこすように命じ、やっと食事にありついたが、気分がわるいからといって、会社へも工場へも行かなかった。客もみな断わって、ひと間にとじこもり、酒ばかり飲んでいた。
 すると、五日ほどたったある日、取り引き銀行の支店長がたずねてきた。おり入ってお話があるというので、利害関係のあることだから、追い帰すわけにもいかず、応接間に通させておいて、行ってみると、見も知らぬ小男が、大きなアームチェアにちょこんと腰かけていた。
「あなたは……? 支店長が替わられたのですか」
 良斎が不審顔に尋ねると、小男はイスから立って、ニヤニヤ笑いながら、おじぎをした。
「非常に重大な用件で伺ったのです。じつは、わたしはこういうものです」
 といって、名刺をさし出した。受け取ってみると、それにはギョッとするような肩書きが印刷してあった。

影男图片2

 読者はご存じの名まえである。いつか影男が人工底なし沼の殺人技術を教えてやったあの殺人会社の須原正(すはらただし)であった。しかし、良斎はそういう不思議な会社の存在をまったく知らなかったので、こいつ精神病者ではないかと、びっくりして相手の顔を見つめた。
「いや、お驚きはごもっともです。いきなりこんな物騒な名刺をだれにも出すわけじゃありません。銀行支店長の名をかたったりして、あなたに追い帰されては困ると思いましてね。その予防策に、ちょっとお驚かせしたのです。しかし、この名刺はでたらめじゃありません。わたしは、こういう会社を経営しておるのです。たぶん、あなたはこんな事業に興味をお持ちになると思いますが……」
 小男の須原は、いつかと同じ黒い服を着ていた。サルのような顔をした風采(ふうさい)のあがらぬ男だ。そのサルの顔で、ニヤニヤ笑いながらいうのである。
「殺人請負会社というのは、つまり人殺しを引き受ける会社という意味ですか」
 良斎はあきれた顔で聞き返した。ズバリとそんな名刺を出した大胆不敵さに、まだ納得ができないのだ。
「そうです。料金をいただいて、人殺しを請け負うというわけですよ」
 ますます恐ろしいことをいう。やっぱり気ちがいではないのかしら。
「で、わたしがそういう会社に興味を持っているというのは?」
 良斎はむずかしい顔をして、相手をにらみつけた。
「アハハハハ、それはもう、(じゃ)の道はヘビですよ。わたしは五日ばかり前の晩の、ここのお庭でのできごとを、何もかも知っているのです。だからこそ、お伺いしたのですよ」
 良斎はこんどこそ、ほんとうにギョッとして、思わず顔色が変わった。しかし、さりげなく、
「ここの庭で、どんなことがあったというのです?」
「いや、お隠しになることはありません。わたしはすっかり知っているのです。それに、他人に漏らすようなことはけっしてありません。わたしの会社としては、だいじな財源ですからね。あなたは大きなおとくいさまになられるかたですからね。しかし、ただこう申しても、ご信用がないかもしれません。では、わたしがどれほど知っているかということをお話しいたしましょう。
 あなたは、奥さんと、奥さんの情人とを、庭の土の中へ生き埋めになさった。そして、首だけを土の上に出しておいて、大きな(かま)で、その二つの首を刈り取ろうとなすった。ところが、そこへ不思議な人物が現われた。黒い覆面をして、まっくろなシャツのようなものを着たやつです。あなたはそいつに縛られてしまった。そいつは土に埋められていたふたりを助け出して、どこかへ連れ去ってしまった。どうです。これだけいえば、もうご信用くださるでしょうね」
 良斎はそういわれても、まだ相手を信用する気になれなかったので、だまっていた。小男須原はしゃべりつづける。


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