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影男-明智小五郎(2)
日期:2022-02-16 18:21  点击:307

 影男は興味深くそれを傍観していた。すべてかれには初耳であった。昌吉と美与子が助けられたことをこのときはじめて知り、名探偵の手ぎわを、ヤンヤとほめてやりたいような気持ちだった。小男須原のろうばいは小気味がよかった。
 それにしても、ここは名探偵と犯罪者の対決の場として、なんという異常な背景であったろう。うじゃうじゃとひしめく無数の肉体のまっただなかで、探偵理論が語られているのだ。凶悪殺人があばかれているのだ。
 裸女たちは黒衣の警官隊の侵入におそれをなして、過半はもう木の幹からおりて、明智とふたりの犯人のまわりにむらがり立っていた。この場を逃げ出したい恐怖心よりも、彼女らの性格として、ふてぶてしい好奇心が勝ちを占めた。なにか見せ物でものぞくように、三人のまわりにむらがって、不思議な問答に聞き耳を立てていた。
 明智は話しつづけた。
「すべては斎木の信用にかかっていた。きみは腹心の部下として斎木を信頼しきっていた。それがなければ、ぼくのトリックは成功しなかっただろう。きみの信用をさらに強めるために、ぼくはここにいる佐川君、それとも速水君かね、この人物を森の中で襲って、とりこにした。それから、自動車を運転して、東京のいたるところにあるきみの根城をまわりあるいた。だが、その根城のことごとくに、警察の見張りがついているといったのは、やっぱりぼくのトリックだった。あれはみんなうそなのだ。きみは斎木としてのぼくを信頼しきっていたので、そのうそを見やぶることができなかった。
 なぜ、そんなうそをいったか。窮余の一策として、きみが佐川君の知恵を借りるのを待っていたのだ。佐川君がぼくたちをどこへ連れて行くか、それが知りたかったのだ。すると、こういうおもしろい地底の世界を見せてくれた。そして、ここでまた不思議な犯罪者を発見することができた。
 三人が三人とも、さすがのぼくも今までに出会ったこともないとびきりの異常犯罪者だった。ひとりは殺人請負会社の専務、ひとりはこの世の裏を捜しまわって恐喝(きょうかつ)を常習とする影男、ひとりは地底にパノラマ王国を築いてそれを営業とする怪人物、ぼくは一石にして巨大な三鳥を得た。すばらしい獲物だったよ。ハハハハハ」
 明智はそのときはじめて、心からのように大きく笑った。その軽やかな、はずむような哄笑(こうしょう)が、裸女群の頭上を漂って、八角の鏡の壁に反響した。
 すると、影男がこれもニコニコ笑いながら、一歩明智に近づいて、口を切った。
「それにしても、明智先生は、この地底の世界へははじめて来られたのでしょう。それで、どうしてこんなに手早く警察と連絡できたのでしょうか。これにも何か手品の種があるのですかね」
「それは種があるんだよ」
 明智はまるで親しい友だちにでも話しかけるような口調であった。
「きみはぼくの少年助手に小林という子どものいることを知っているだろうか。その小林が、ぼくたちの乗ってきた自動車のうしろのトランクの中に隠れていたのだよ。ぼくが隠しておいたのだよ。それはいつだというのか? きみを縛るまえに、あの神社の森のそばでさ。
 ここのうちの門をはいってから、小林はそっとトランクから抜け出して、近くの電話で、警視庁の中村警部に場所を知らせた。中村君は部下をつれて、このうちに駆けつけ、へいのまわりに待機していた。
 一方、ぼくは地底世界で、ちょっと荒療治をやった。さっき、しばらくのあいだ、ぼくはきみたちのそばを離れたね。きみたちが艶樹(えんじゅ)艶獣(えんじゅう)を観賞しているあいだに、ぼくはひと仕事やったのだ。
 きみたちに気づかれぬように、もとの道を引き返して、入り口に近い事務室で、主人のちょびひげを手ごめにしてどろを吐かせた。地底世界の様子が、あらましわかった。ここには八人の男が使われていた。その八人を、次々と事務室に呼んで、次々と縛り上げてしまったのだ。ぼくはこう見えても腕力に自信がある。ひとりとひとりなら、どんな猛者(もさ)にもひけをとるものじゃない。
 それから、ちょびひげを脅迫して、池のシリンダーを浮き上がらせ、待機していた十人の警官を地底世界に引き入れた。そして、八人の男の黒ビロードをぬがせて、中村警部と七人の部下にそれを着せた。この艶樹(えんじゅ)の森へ黒衣の警官が侵入してきたのは、そういうしだいなのさ。残るふたりの警官は、事務室に縛り上げてあるちょびひげと八人の男を見張っているのだよ。


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