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蒙面的舞者 一(1)
日期:2022-04-03 23:57  点击:252


 私がその不思議なクラブの存在を知ったのは、私の友人の井上次郎(いのうえじろう)によってでありました。井上次郎という男は、世間にはそうした男が間々(まま)あるものですが、妙に、いろいろな暗黒面に通じていて、例えば、どこそこの女優なら、どこそこの(うち)へ行けば話がつくとか、オブシーンピクチュアを見せる遊廓(ゆうかく)はどこそこにあるとか、東京に()ける第一流の賭場(とば)は、どこそこの外人(まち)にあるとか、その(ほか)、私達の好奇心を満足させるような、種々様々の知識を極めて豊富に持合せているのでした。その井上次郎が、ある日のこと、私の家へやって来て、さて改まって()うことには、
「無論君なぞは知るまいが、僕達の仲間に二十日会という一種のクラブがあるのだ。実に変ったクラブなんだ。()わば秘密結社なんだが、会員は皆、この世のあらゆる遊戯や道楽に飽き果てた、まあ上流階級だろうな、金には不自由のない連中なんだ。それが、何かこう世の常と異った、変てこな、刺戟(しげき)を求めようという会なんだ。非常に秘密にしていて、滅多(めった)に新しい会員を(こしら)えないのだが、今度一人欠員ができたので――その会には定員がある(わけ)だ――一人だけ入会することができる。そこで、友達甲斐(がい)に、君の所へ話しに来たんだが、どうだい入っちゃ」
 例によって、井上次郎の話は、(はなは)だ好奇的なのです。云うまでもなく、私は早速(さっそく)挑発されたものであります。
「そうして、そのクラブでは、一体全体、どういうことをやるのだい」
 私が尋ねますと、彼は待ってましたとばかり、その説明を始めるのでした。
「君は小説を読むかい。外国の小説によくある、風変りなクラブ、例えば自殺クラブだ。あれなんか少し風変り過ぎるけれど、まあ、ああ云った強烈な刺戟を求める一種の結社だね。そこではいろいろな(もよお)しをやる。毎月(まいげつ)二十日に集るんだが、一度毎(ひとたびごと)にアッと云わせるようなことをやる。今時この日本で、決闘が行われると云ったら、君なんか本当にしないだろうが、二十日会では、こっそりと決闘の真似事(まねごと)さえやる。(もっと)も命がけの決闘ではないけれど、或時(あるとき)は、当番に当った会員が、犯罪めいたことをやって、例えば人を殺したなんて、まことしやかにおどかすことなんかやる。それが(しん)に迫っているんだから、誰しも(きも)を冷すよ。また或時は、非常にエロチックな遊戯をやることもある。()(かく)、そうした様々な珍しい催しをやって、普通の道楽なんかでは得られない、強烈な刺戟を(あじわ)うのだ、そして喜んでいるのだ。どうだい面白いだろう」
 といった調子なのです。


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