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蒙面的舞者 一(2)
日期:2022-04-03 23:57  点击:246
「だが、そんな小説めいたクラブなんか、今時実際に()るのかい」
 私が半信半疑で聞き返しますと、
「だから君は駄目(だめ)だよ。世の中の隅々(すみずみ)を知らないのだよ。そんなクラブなんかお(ちゃ)()さ。この東京には、まだまだもっとひどいものだってあるよ。世の中というものは、君達君子(くんし)が考えている程単純ではないのさ。早い話が、ある貴族的な集会所でオブシーンピクチュアの活動写真をやったなんてことは、世間周知(しゅうち)の事実だが、あれを考えて見給(みたま)え。あれなんか、都会の暗黒面の一片鱗(へんりん)に過ぎないのだよ。もっともっとドエライものが、その辺の隅々に、ゴロゴロしているのだよ」
 で、結局、私は井上次郎に説伏(せっぷく)されて、その秘密結社へ入ってしまったのです。さて入って見ますと、彼の言葉に(うそ)はなく、いやそれどころか、多分こうしたものだろうと想像していたよりも、ずっとずっと面白い。面白いというだけでは当りません、蠱惑的(こわくてき)という言葉がありますが、まああの感じです。一度(ひとたび)その会に入ったら、それが()みつきです。どうしたって、会員を()そうなんて気にはなれないのです。会員の(すう)は十七人でしたが、その中でまあ会長といった位置にいるのは、日本橋(にほんばし)のある大きな呉服屋の主人公で、これがおとなしい商売柄に似合わず、非常にアブノルマルな男で、いろいろな催しも、主としてこの呉服屋さんの頭からしぼり出されるという訳でした。恐らく、あの男は、そうした事柄(ことがら)にかけては天才だったのでありましょう。その発案が一つ一つ、奇想天外で、奇絶怪絶で、もう間違いなく会員達を喜ばせるのでした。
 この会長格の呉服屋さんの(ほか)の十六人の会員も、夫々(それぞれ)一風変った人々でした。職業分けにして見ますと、商人が一番多く、新聞記者、小説家――それは皆相当名のある人達でした――そして、貴族の若様も一人加わっているのです。かく云う私と井上次郎とは、同じ商事会社の社員に過ぎないのですが、二人共金持の親爺(おやじ)を持っているので、そうした贅沢(ぜいたく)な会に入っても、別段苦痛を感じないのでした。申し忘れましたが、二十日会の会費というのが少々高く、たった一晩の会合のために、月々五十円ずつ徴収(ちょうしゅう)せられる外に、催しによってはその倍も三倍もの臨時費が()るのでした。これはただの腰弁(こしべん)にはちょっと手痛い金額です。
 私は五ヶ月の間二十日会の会員でありました。つまり五(たび)だけ会合に出た訳です。先にも云う通り、一度入ったら一生()められない程の面白い会を、たった五ヶ月で止してしまったというのは、如何(いか)にも変です。が、それには訳があるのです。そして、その、私が二十日会を脱退するに至ったいきさつをお話するのが、実はこの物語の目的なのであります。
 で、お話は、私が入会以来第五回目の集りのことから始まるのです。それまでの四回の集りについても、()し暇があればお(はなし)したく思うのですが、そして、お話すればきっと読者の好奇心を満足させることができると信ずるのですが、残念ながら、紙数に制限もあることですから、ここには(はぶ)くことに致します。


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