日语学习网
蒙面的舞者 二(3)
日期:2022-04-03 23:57  点击:243
 同じ番号の縁で私の前に立った婦人は、黒っぽい洋装をして、昔流の濃い覆面をつけ、その上から御丁寧にマスクをかけていました。一見した所、こうした場所にはふさわしくない、しとやかな様子をしていましたけれど、さて、それが何者であるか、専門のダンサーなのか、女優なのか、或はまた堅気(かたぎ)の娘さんなのか、井関さんの(せん)だっての口振りでは、まさか芸妓(げいしゃ)などではありますまいが、何しろ、全く見当がつかないのです。
 が、だんだん見ています内に、相手の女の身体(からだ)つきに、何だか見覚えのあるような気がしてきました。気の迷いかも知れませんけれど、その恰好は、どこやらで見たことがあるのです。私がそうして彼女をジロジロ眺めている間に、先方でも同じ心と見えまして、長髪画家に変装した私の姿を熱心に検査し、思いわずらっている様子でした。
 あの時、蓄音器の廻転し始めるのがもう少しおそく、電燈の消えるのがちょっとでも遅れたなら、或は私は、後に私をあのように驚かせ恐れさせた所の相手を、(すで)に見破っていたかも知れないのですが、惜しいことには、もう少しという所で、一時に広間が暗黒になってしまったのです。
 ハッと暗闇になったものですから、仕方なく、或はやっと勇気づいて、私は相手の女の手を取りました。相手の方でも、そのしなやかな手頸(てくび)を私にゆだねました。気の利いた司会者は、態とダンス物を避けて、静かな絃楽合奏のレコードをかけましたので、ダンスを知った人も、知らない人も、一様に素人(しろうと)として、広間の中を廻り始めました。()しそこに(わず)かの光でもあろうものなら、気がさして、(とて)も踊ることはできなかったでしょうが、司会者の心遣いで、幸い暗闇になっていたものですから、男も女も、案外活溌に、おしまいには、コツコツという沢山(たくさん)跫音(あしおと)が、それから、あらい息使いが、広間の天井に響き渡る程も、(いきおい)よく踊り出したものであります。
 私と相手の女も、初めの間は、遠方から手先を握り合って、遠慮勝ちに歩いていたのが、だんだん接近して、彼女の(あご)が私の肩に、私の(かいな)が彼女の腰に、密接して、夢中になって踊り始めたのであります。


分享到:

顶部
11/28 10:39