最初二三度は、彼は態と鬼になって、子供達の無邪気な隠れ場所を探し廻った。それにあきると隠れる側になって、子供達と一緒に押入れの中だとか、机の下だとかへ、大きな身体を隠そうと骨を折った。
「もういいか」「まあだだよ」という掛声が、家中に狂気めいて響き渡った。
格太郎はたった一人で、彼の部屋の暗い押入れの中に隠れていた。鬼になった子供が「何々ちゃんめっけた」と呼びながら部屋から部屋を廻っているのが幽に聞えた。中には「ワーッ」と怒鳴って隠れ場所から飛び出す子供などもあった。やがて、銘々発見されて、あとは彼一人になったらしく、子供達は一緒になって、部屋部屋を探し歩いている気勢がした。
「おじさんどこへ隠れたんだろう」
「おじさあん、もう出ておいでよ」
などと口々に喋るのが聞えて、彼等は段々押入れの前へ近づいて来た。
「ウフフ、パパはきっと押入れの中にいるよ」
正一の声で、すぐ戸の前で囁くのが聞えた。格太郎は見つかり相になると、もう少しじらしてやれという気で、押入れの中にあった古い長持の蓋をそっと開いて、その中へ忍び、元の通り蓋をして、息をこらした。中にはフワフワした夜具かなんかが入っていて、丁度寝台にでも寝た様で、居心地が悪くなかった。
彼が長持の蓋を閉めるのと引違いに、ガラッと重い板戸が開く音がして、
「おじさん、めっけた」
という叫び声が聞えた。
「アラッ、いないよ」
「だって、さっき音がしていたよ、ねえ何々ちゃん」
「あれは、きっと鼠だよ」
子供達はひそひそ声で無邪気な問答をくり返していたが、(それが密閉された長持の中では、非常に遠くからの様に聞えた)いつまでたっても、薄暗い押入れの中は、ヒッソリして人の気勢もないので、
「おばけだあ」
と誰かが叫ぶと、ワーッと云って逃げ出して了った。そして、遠くの部屋で、
「おじさあん、出ておいでよう」
と口々に呼ぶ声が幽に聞えた。まだその辺の押入れなどを開けて、探している様子だった。
「もういいか」「まあだだよ」という掛声が、家中に狂気めいて響き渡った。
格太郎はたった一人で、彼の部屋の暗い押入れの中に隠れていた。鬼になった子供が「何々ちゃんめっけた」と呼びながら部屋から部屋を廻っているのが幽に聞えた。中には「ワーッ」と怒鳴って隠れ場所から飛び出す子供などもあった。やがて、銘々発見されて、あとは彼一人になったらしく、子供達は一緒になって、部屋部屋を探し歩いている気勢がした。
「おじさんどこへ隠れたんだろう」
「おじさあん、もう出ておいでよ」
などと口々に喋るのが聞えて、彼等は段々押入れの前へ近づいて来た。
「ウフフ、パパはきっと押入れの中にいるよ」
正一の声で、すぐ戸の前で囁くのが聞えた。格太郎は見つかり相になると、もう少しじらしてやれという気で、押入れの中にあった古い長持の蓋をそっと開いて、その中へ忍び、元の通り蓋をして、息をこらした。中にはフワフワした夜具かなんかが入っていて、丁度寝台にでも寝た様で、居心地が悪くなかった。
彼が長持の蓋を閉めるのと引違いに、ガラッと重い板戸が開く音がして、
「おじさん、めっけた」
という叫び声が聞えた。
「アラッ、いないよ」
「だって、さっき音がしていたよ、ねえ何々ちゃん」
「あれは、きっと鼠だよ」
子供達はひそひそ声で無邪気な問答をくり返していたが、(それが密閉された長持の中では、非常に遠くからの様に聞えた)いつまでたっても、薄暗い押入れの中は、ヒッソリして人の気勢もないので、
「おばけだあ」
と誰かが叫ぶと、ワーッと云って逃げ出して了った。そして、遠くの部屋で、
「おじさあん、出ておいでよう」
と口々に呼ぶ声が幽に聞えた。まだその辺の押入れなどを開けて、探している様子だった。