海が呼んだ話(3)
日期:2022-09-01 23:23 点击:264
三
自転車屋の後へ乾物屋ができてから、二か月ばかりたつと、勇ちゃんの叔父さんは、不思議な病気にかかりました。それは、ふいに原因のわからぬ熱が出て、手足がしびれてきかなくなるのでした。とりわけ、西の空が夕焼けをする、日暮れ方に熱が出るというのであります。そして、近所の医者に見てもらったけれど、なんの病気かわからないというのでした。このことが、また近所のうわさになったのです。
「勇ちゃんの叔父さん、きょう病院へいったよ。」と、正二が、いいました。
清吉と正二は、学校の帰りに、乾物屋の前を通ると、おじさんが、店にすわっていました。二人は、入ってそばへ腰かけました。
「おじさん、顔色がわるいね。」
「病院へいって、見てもらってきたの?」
おじさんは、二人の子供の顔を見て笑いながら、
「海が、おれを呼ぶんだよ、子供の時分から、水をもぐってきたものが、陸へ上がりきってしまうと体がきかなくなって怖ろしいことだな。」
「そんなら、おじさん、また海へ帰るの。」
「ああ、海へ帰って、もぐりたくなった。そうすれば、体もじょうぶになるということだ。そうしたら、二人とも遊びにきな。浜は風があって、夏は涼しいぜ。えびでもたこでも、新しい魚を食べさせるから。」
「おじさん、このお店はどうするの。」
「この家か、また前の人たちがきて入るだろう。やはり、急に町から、田舎へいっても暮らしが立たないのだよ。」と、おじさんが、いいました。
「そんなら、また、勇ちゃんと遊べるんだね。」と、正二は、にっこりしました。店を出ると、
「僕、おじさんに別れるの、悲しいや。」と、清吉は、歩きながら、正二をかえりみて、いいました。
とんぼが、飛んでいました。
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