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海が呼んだ話(2)
日期:2022-09-01 23:23  点击:314
 

二


 ある日ひのこと、清吉せいきちのお父とうさんは、勇ゆうちゃんの叔父おじさんが、海うみの生活せいかつをやめて、こちらへくるようになったわけを、外ほかから聞きいてきたのであります。
「清吉せいきち、こんな話はなしは、あまり人ひとにするでないぞ。お父とうさんが、あるところで聞きいてきたのだからな。」
「怖おそろしい話はなし?」
「清せいちゃん、だまって、聞きいていらっしゃい。」と、そばから、姉ねえさんがいいました。
「ある日ひのこと、沖合おきあいで、汽船きせんが衝突しょうとつして、一そうは沈しずみ、ついに行方不明ゆくえふめいのものが、八人にんあったそうだ。あの人ひとは、海うみへくぐる名人めいじんだってな。それで、たぶんその船ふねといっしょに沈しずんでしまったのだろうから、中なかへ入はいって、死骸しがいをさがしてくれと頼たのまれたのだ。」
「あのおじさん、入はいったのかい。」
「だれも、底そこが深ふかいし、気味悪きみわるがって、いい返事へんじをしたものがないのを、あの人ひとは、一人ひとりで入はいったのだ。」
「えらいなあ。」
「えらいとも。」
「いいから、清せいちゃん、だまって聞きいていらっしゃい。」と、お姉ねえさんが、またいいました。
「あの人ひとは、降おりていって、船室せんしつの内うちへ入はいって、さがしたそうだ。けれど、一人ひとりの死体したいも見みつからない。おかしいなと思おもったが、上あがってそのことを報告ほうこくした。すると、いやそんなはずはない。船ふねといっしょに沈しずんだのだから、船室せんしつの内うちにいるに相違そういないというので、あの人ひとは、また海うみの底そこへもぐったのだ。」
「怖おそろしいなあ、おじさん、気味きみが悪わるくなかったろうか。」
「見みつかったんですか。」と、いっしょに、お父とうさんの話はなしを聞きいていらしたお母かあさんが、いいました。
「また、船室せんしつへ入はいって、すみからすみまで、懐中かいちゅうランプで照てらして、さがしたけれど、やはり一人ひとりの死体したいも見みつからない。まったくおかしなことがあるものだと思おもって、あきらめて出でようとしたとたん、ちょっと上うえを見みると、八人にんの死体したいが、ぴったりと天てんじょうについて、じっと自分じぶんの方ほうを見下みおろしていた。このときばかりは、さすがに、あの人ひともぎょっとして、もうすこしで後うしろへひっくり返かえりそうになった。それから、潜水業せんすいぎょうというものが、いやになって、陸おかで暮くらしたいという気きが起おこったという話はなしなんだよ。」
 お父とうさんの話はなしは、終おわりました。
 聞きいていたお母かあさんも、お姉ねえさんも、清吉せいきちも、
「そうだったでしょうね。」と、そのときの、おじさんの気持きもちに、同情どうじょうされたのでありました。
 清吉せいきちは、このことを、おじさんの店みせへ遊あそびにいっても、けっして、口くちにはしなかった。おじさんが、そのときのことを思おもい出だすと悪わるいと思おもったからです。
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