海が呼んだ話(2)
日期:2022-09-01 23:23 点击:263
二
ある日のこと、清吉のお父さんは、勇ちゃんの叔父さんが、海の生活をやめて、こちらへくるようになったわけを、外から聞いてきたのであります。
「清吉、こんな話は、あまり人にするでないぞ。お父さんが、あるところで聞いてきたのだからな。」
「怖ろしい話?」
「清ちゃん、だまって、聞いていらっしゃい。」と、そばから、姉さんがいいました。
「ある日のこと、沖合いで、汽船が衝突して、一そうは沈み、ついに行方不明のものが、八人あったそうだ。あの人は、海へくぐる名人だってな。それで、たぶんその船といっしょに沈んでしまったのだろうから、中へ入って、死骸をさがしてくれと頼まれたのだ。」
「あのおじさん、入ったのかい。」
「だれも、底が深いし、気味悪がって、いい返事をしたものがないのを、あの人は、一人で入ったのだ。」
「えらいなあ。」
「えらいとも。」
「いいから、清ちゃん、だまって聞いていらっしゃい。」と、お姉さんが、またいいました。
「あの人は、降りていって、船室の内へ入って、さがしたそうだ。けれど、一人の死体も見つからない。おかしいなと思ったが、上がってそのことを報告した。すると、いやそんなはずはない。船といっしょに沈んだのだから、船室の内にいるに相違ないというので、あの人は、また海の底へもぐったのだ。」
「怖ろしいなあ、おじさん、気味が悪くなかったろうか。」
「見つかったんですか。」と、いっしょに、お父さんの話を聞いていらしたお母さんが、いいました。
「また、船室へ入って、すみからすみまで、懐中ランプで照らして、さがしたけれど、やはり一人の死体も見つからない。まったくおかしなことがあるものだと思って、あきらめて出ようとしたとたん、ちょっと上を見ると、八人の死体が、ぴったりと天じょうについて、じっと自分の方を見下ろしていた。このときばかりは、さすがに、あの人もぎょっとして、もうすこしで後ろへひっくり返りそうになった。それから、潜水業というものが、いやになって、陸で暮らしたいという気が起こったという話なんだよ。」
お父さんの話は、終わりました。
聞いていたお母さんも、お姉さんも、清吉も、
「そうだったでしょうね。」と、そのときの、おじさんの気持ちに、同情されたのでありました。
清吉は、このことを、おじさんの店へ遊びにいっても、けっして、口にはしなかった。おじさんが、そのときのことを思い出すと悪いと思ったからです。
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