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美しく生まれたばかりに
日期:2022-09-01 23:23  点击:306

さびしい、暗くらい、谷たにを前まえにひかえて、こんもりとした森もりがありました。そこには、いろいろな小鳥ことりが、よく集あつまってきました。
秋あきから、冬ふゆへかけて、そのあたりは、いっそうさびしくなりました。森もりは陰気いんきな顔かおをして、黙だまっていました。そのとき、眠ねむりをさまさせるように、いい声こえを出だして、こまどりが鳴なきました。
これを聞きくと、森もりは、元気げんきづいたのです。
「あの美うつくしいこまどりがきたな。どうか、この森もりに長ながくおってくれればいい。」と、木立こだちは思おもったのでした。
多おおくの木立こだちは、自分じぶんの枝えだへ、毎日まいにちのようにくるたくさんの小鳥ことりたちを知しっていました。しかし、どの鳥とりも、こまどりのように、美うつくしく、そして、いい声こえをだして鳴なくものがなかった。
「どうか、私わたしの枝えだへきて、こまどりは止とまってくれないものかな。」と、一本ぽんの木立こだちは、考かんがえていました。
ちょうど、そのとき、そこへ飛とんできたのは、やまがらと、しじゅうからでありました。
「たいへんに、寒さむくなりましたね。嶺みねを吹ふく風かぜは身みを切きるようです。しかし、この森もりは、奥深おくふかいから、いつ雪ゆきになっても、私わたしたちは、安心あんしんですが……。」と、鳥とりたちは、話はなしをしています。
木立こだちは、それを聞きくと、自分じぶんも、じつに寒さむくなったように身震みぶるいをしました。
「しじゅうからさん、山やまのあちらは、暴あれていますか? そういえば、もう雲くもゆきが速はやくて、すっかり冬ふゆですものね。また、雪ゆきの中なかにうずもれることを考かんがえると、まったく、いやになってしまいます。あなたたちは、しあわせものですよ……。」と、しみじみとした調子ちょうしで、木立こだちは、いいました。
やまがらは、その枝えだで、一度どもんどりを打うちました。
「私わたしたちがしあわせだって? ……それはちがいますよ。一日にち、風かぜに吹ふかれて駆かけまわっても、このごろは、虫むし一匹ぴき見みつからないことがあります。それに、これからは、雨風あめかぜに追おわれて、あちらへ逃にげ、こちらへ逃にげなければなりません……。」と、やまがらは、答こたえた。
「だって、そうして、自由じゆうに空そらを飛とべるのじゃありませんか。私わたしたちは、永久えいきゅうに、ここにじっとしていなければならない運命うんめいにあります。こうして、毎日まいにち、同おなじような谷川たにがわの音おとを聞きいていなければなりません。先刻せんこくでしたか、こまどりさんの歌うたを聞ききましたが、いつも、よい声こえですね。」と、木立こだちは、うっとりとしていいました。
「ほんとうに、あのこまどりこそ、しあわせ者ものです。どこへいっても、森もりや、林はやしに、かわいがられます。森もりじゅうの木立こだちが、どうか自分じぶんの枝えだにきて止とまってくれればいいと思おもっている。私わたしたちが、せっかく、一夜やをそこにあかそうと思おもって止とまると、枝えだが意地悪いじわるく、夜中よなかに、私わたしたちの体からだを揺ゆすって、振ふり落おとそうとする。それに、くらべれば、同おなじ小鳥ことりとうまれて、こまどりは、ほんとうにしあわせ者ものであります。」と、二羽わの小鳥ことりは、口々くちぐちにいいました。
木立こだちは、さすがに、気恥きはずかしく感かんぜずにはいられなかったのです。
「いえ、私わたしだけは、そんな意地悪いじわるではありません。だれでも、私わたしの枝えだにきて止とまってくだされば、ありがたく思おもっています。どうか、こんなさびしい日ひは、よそへゆかずに、ここにいて、いろいろごらんなされた、おもしろい話はなしをしてくださいませんか。」と、木立こだちは頼たのみました。
このとき、風かぜが、またひとしきり強つよくなった。やまがらは、驚おどろいて、飛とび立たとうとして、
「それよりは、私わたしは、昨日きのう、嶺みねのあちらで、はやぶさにねらわれた。もうすこしで捕とらえられようとしたのを、いばらのやぶに逃にげこんで助たすかったが、こうして、風かぜが、ふいに吹ふくと、また、はやぶさにねらわれたかと思おもって、びっくりする……。」と、しじゅうからにいうとなく、独ひとりで思おもいだしていいました。
「ほんとうに、そうした話はなしを聞きくと、自由じゆうに空そらを飛とべるあなたたちにも、いろいろな苦労くろうがあるのですね。」と、木立こだちは同情どうじょうしました。
いつしか、あたりは、暗くらくなっていった。そして、谷川たにがわの水みずが、あいかわらず、単調たんちょうな歌うたをうたっているのが、あたりが、しんとすると、いっそうはっきりと聞きこえてきました。
空そらを見みると、雲切くもぎれがしているその間あいだから、一つ星ぼしが、大おおきな目めで下したをじっと見下みおろして、木立こだちに止とまっている小鳥ことりたちが、熱心ねっしんに、風かぜに動うごく枝えだと話はなしをしているのに、耳みみを澄すまして聞きいていました。
「ねえ、空そらのお星ほしさま、ここに、いつもこうして、じっとして動うごけない私わたしたちと、このかわいらしい小鳥ことりさんたちと、どちらが、幸福こうふくなものでしょうかね。何事なにごとも、あなたは、わかっておいでなさると聞きいていますが、どうか、教おしえてくださいませんか。」と、まだ、そんなに、この森もりの中なかでは年としをとっていない木立こだちが、快活かいかつに、星ほしに向むかってたずねました。
星ほしは、急きゅうに、問といかけられて、急いそがしそうに瞬またたきをしました。それから、じっと態度たいどを澄すまして、おちついた調子ちょうしで、
「地上ちじょうに、すむものは、よいも、悪わるいもない、みんなの運命うんめいは同おなじなんです。」と、答こたえた。
すると、こんどは、小ちいさなしじゅうからが、黙だまっていなかった。
「星ほしさん、星ほしさん、そうじゃないでしょう。いい声こえのこまどりは、どこへいっても、森もりや、林はやしたちばかりでない、人間にんげんからもかわいがられます。私わたしは、ああいういい声こえを持もって、美うつくしく生うまれてきたものが、幸福こうふくだと思おもわずにいられません。」といいました。
木立こだちは、しじゅうからの言葉ことばに、しきりに同感どうかんをして、頭あたまを振ふっていた。すると、星ほしは、いちだんと清きよらかな光ひかりを増まして、大おおきな目めをみはったように、
「そう思おもうのも無理むりはありませんが、どうして、それが、終生しゅうせいの幸福こうふくだといわれますか……。そのためにいいこともあれば、また、悪わるいこともある。空そらから、見みているとよくわかりますよ。」と、星ほしは答こたえたのです。
風かぜは、ますます強つよく吹ふいてきました。黒くろい雲くもが出でると、せっかく、のぞいた清きよらかな星ほしの光ひかりも、跡形あとかたもなくかくしてしまいました。
小鳥ことりたちは、ついうかうかとして、時ときのたったのに気きづかなかったが、まったく、暗くらくなってしまうと、おのおのの友ともだちのいるところを探さがして、あちらとこちらで呼よびかわしながら、森もりの深ふかくへはいってゆきました。
明あくる日ひの暮くれれ方がたのこと、雪ゆきがちらちらと風かぜにまじって降ふっていました。こまどりは、ひとりいい声こえで、この木立こだちに止とまって鳴ないていました。
「ごらんなさい。あなたが鳴なきますと、ほかの鳥とりたちは、みんな黙だまってしまうではありませんか。たまに、こうして、あなたがたずねてきて鳴ないてくださるので、私わたしたちは、さびしい、こんな山中やまなかにいてもなぐさめられるのです。今夜こんやは、雪ゆきになりそうです。晩ばんは、この森もりの奥おくへはいって、お休やすみなさいまし。」と、木立こだちがいいました。
「きのうは、あちらの山やまにいってみました。夕焼ゆうやけが赤あかかったから、雪ゆきになろうと思おもったのですよ。自分じぶんの唄うたが、西にしの空そらへ響ひびくような気きがしました。」と、こまどりは、自分じぶんの声こえを自慢じまんしたのです。
「こまどりさん、ほんとうに、今夜こんやにでも雪ゆきが積つもったら、明日あしたは、あなたは、ふもとの方ほうへいってしまわれるでしょう。そうすれば、また、春はるがくるまで、あなたの歌うたを聞きくことができないのです。どうか、もう一つ歌うたってくださいませんか。」と、木立こだちはたのみました。
こまどりは、寒さむい風かぜに吹ふかれながら、谷たにの方ほうを向むいて、ほがらかに、さえずりはじめました。このとき、あちらから、矢やを射いるように、黒くろいものが飛とんできたかと思おもうと、こまどりは思おもわず、すくんでしまった。それといっしょに、木立こだちは、
「あっ!」といって、声こえをあげました。
はやぶさが、こまどりを狙ねらって、それを捕とらえたからです。
なぜ早はやく、森もりの中なかへ、隠かくれなかったかと、木立こだちは、気きをもんだけれども、はや、なんの役やくにもたたなかった。
「はやぶささん、どうか、そのこまどりの命いのちだけは、取とらないでください。」と、木立こだちは、はやぶさに訴うったえました。
「あまり、こいつが、いい気きになって、自分じぶんの声こえを自慢じまんするからさ。」と、はやぶさは、こまどりを片脚かたあしで押おさえつけて、いいました。
「なにも、あなたに、悪わるいことをしたのでありますまい。私わたしが、頼たのんで、唄うたをうたってもらったのです。あまり、今日きょうは、あたりが陰気いんきで、寂さびしいものですから……。」と、木立こだちは頼たのみました。
はやぶさは、目めをくるくるさしていましたが、
「ほんとうに、寒さむい、さびしい日ひだな。こんな日ひには、小鳥ことりどもも、目めにつかない。こいつは見みたところは、きれいだが、毛色けいろばかりで肉にくがまずいので、あまり俺おれは、好すきでない。そんなに、おまえがいうなら、こいつの命いのちだけは、助たすけてやろう。そのかわり、こんど、小鳥ことりが、ここへ飛とんできたなら、おまえは、頭あたまでも振ふって、俺おれに知しらせてくれい。」と、はやぶさはいいました。
木立こだちは、こまどりが助たすけられたので、うれしく思おもった。しかし、はやぶさは、すぐに、こまどりを放はなしてやろうとはしなかったのでした。
「おまえの命いのちは、助たすけてはやるが、今夜こんや、一晩ひとばん、こうして、俺おれの脚あしを温あたためさせろ!」といって、はやぶさは両脚りょうあしで、こまどりの体からだを踏ふみつけたのでした。こまどりの体からだは、押おしつぶされそうになって、声こえもたてられなかった。
木立こだちは、なんという残酷ざんこくなことをするものだろうと、これを見みるのにしのびませんでした。が、じきに、暗くらく、暗くらくなって、すべての光景こうけいを、夜よるが、隠かくしてしまいました。
夜よるが、ほのぼのとあけかかったとき、木立こだちは、こまどりがどうなったかを見みると、はやぶさは、もはや、そこにはいませんでした。あちらの嶺みねの方ほうへ、早起はやおきする小鳥ことりたちの声こえを聞ききつけて、これを捕とらえて飢うえを満みたすために、飛とんでいってしまった後あとです。そして、こまどりだけが、哀あわれげなようすをして、くちばしで、自分じぶんの体からだの毛けの乱みだれを直なおしていました。
木立こだちは気きの毒どくに思おもって、声こえをかけることもできなかったのでした。
ちらちらと降ふった、雪ゆきを清浄せいじょうに照てらして、朝日あさひが上のぼりました。
こまどりは、そうそうに、木立こだちに別わかれを告つげて、ふもとの方ほうをさして急いそぎました。その後あとへ、先日せんじつのしじゅうからが飛とんできて、木立こだちから、はやぶさとこまどりの話はなしを聞きいて、小ちいさなくびを毛けの中なかにすくめたのです。
「こまどりは、町まちへいっても、殺ころされるようなことはありますまい。しかし、先日せんじつのお星ほしさまのいったように、なにが幸福こうふくとなり、また、不幸ふこうとなるかもしれませんね。私わたしどものように、だれからほめられるということのないかわり、自由じゆうに空そらを翔かけることができるのが、しあわせであるかもわからない。こんな皮かわと骨ほねばかりの私わたしどもを、はやぶさだってねらいはしますまいから……。」と、いったのです。
ちょうど、このとき、こまどりは、平原へいげんの上うえを飛とんでいました。見みわたすかぎり、初雪はつゆきにいろどられて、白しろい世界せかいの中なかを、金色こんじきの帯おびのように、河かわが流かわれ、田圃たんぼは、獣物けだものの背中せなかのように、しまめを造つくっていました。
昼ひるごろのこと、こまどりは、地平線ちへいせんのかなたに浮うかび出でた、華はなやかな町まちを見みました。
「まあ、なんという輝かがやかしい町まちだろう。人間にんげんがここに住すんでいるのだ……。山やまにいるとき、よくほかの鳥とりたちが、おまえさんは、羽はねの色いろも美うつくしいし、声こえもいいから、人間にんげんにもかわいがられるだろうといったことがあった。もし、人間にんげんが、私わたしをかわいがってくれるなら、私わたしは、どんなにしあわせかしれん……。」と、こまどりは、高たかい木きに止とまって、独ひとり言ごとをしていました。
町まちの建物たてものは、日ひに輝かがやいて、煙突えんとつから白しろい煙けむりがおもしろそうに、雪晴ゆきばれのした、青あおい空そらに流ながれて消きえていました。このとき、すずめが、軒端のきばの方ほうから二羽わ飛とんできて、こまどりの止とまっている、下したの方ほうの枝えだに止とまって、話はなしをしていたのです。
「あの、美うつくしいお嬢じょうさんの家いえにいたのと、同おなじい鳥とりじゃないか?」
この言葉ことばを聞ききつけた、こまどりは、すずめの方ほうを見下みおろしました。そこには、見慣みなれない二羽わの鳥とりたちが、自分じぶんのうわさをしていたのでした。すずめは、山やまの奥おくにはすんでいなかったからです。
「もう、一度ど、いまのお話はなしを聞きかしてくださいませんか。」と、こまどりはやさしく、いいました。
すると、すずめは、おしゃべり者ものですから、
「この町まちで、いちばんりっぱなお家うちなのです。そこのお嬢じょうさんは、評判ひょうばんの美人びじんですが、あなたと同おなじ鳥とりが、このあいだまで、かわいがられて、飼かわれていたのですよ。それが、このごろ、逃にげたとみえていなくなったのです……。」といいました。
「それは、どのお家うちですか?」
「あの森もりの中なかに見みえる、高たかい家うちが、それですよ。」
こまどりは、いいことを聞きいたと思おもって、すぐに、その家いえの方ほうへ飛とんでいった。そして、庭にわの桜さくらの木きに止とまって、いい声こえを出だして鳴なきました。たちまち、窓まどが開あいて、美うつくしいお嬢じょうさんが、顔かおをだしました。
「まあ、いいこまどりだこと、家うちのが帰かえってきたのかもしれないわ。」といって、お嬢じょうさんは、きれいなかごの中なかへ、こまどりの好すきそうな餌えさを猪口ちょこに入いれて、かごの戸とをあけて、木きの下したへだしました。
こまどりは、木きの上うえで、これを見みながら、しばらく考かんがえていたが、だんだん下したへ降おりてきました。そして、とうとうそのかごの中なかへはいると、くびをまわして、内うちのようすをながめました。このとき、お嬢じょうさんが、飛とんできて、戸とを閉しめてしまいました。
こまどりは、かごの中なかへはいってから、なぜいままでのこまどりは、このかごの中なかから、逃にげていったのだろうかということを、青空あおぞらを見みながら考かんがえたのです。すると、彼かれは、急きゅうに自由じゆうを失うしなってしまったことに気きがついて、かごの中なかで、騒さわぎはじめました。
「すこし暗くらいところへ置おいたほうがいいわ。」と、お嬢じょうさんは、奥おくの座敷ざしきへ、かごを持もってきました。こまどりは、はじめて人間にんげんの住すむ家いえの内うちを見みるので、珍めずらしそうに見みまわしていました。そのうちに、またたちまち悲鳴ひめいをあげて、狭せまいかごの中なかで狂くるい出だした。あちらで、はやぶさが、こまどりをにらんでいたからです。
しかし、それは、床とこの間まにかかっている、掛かけ物ものの絵えであることがわかりました。そして、この小ちいさな鳥とりにも、人間にんげんは、なんでも人間以外にんげんいがいのものをおもちゃにするが、めったに幸福こうふくを与あたえるものでない、幸福こうふくというものは、自分じぶんだけの力ちからで得えられるものだと悟さとると、いままでいろいろと目めに描えがいた美うつくしい空想くうそうは消きえてしまった。
こまどりは、やはり、怖おそろしいはやぶさのすんでいる、山やまの中なかが恋こいしくなりました。そして、いまとなっては、とりかえしのつかない、自分じぶんのはやまった生活せいかつを後悔こうかいしたのであります。

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