一本の釣りざお(4)
日期:2022-09-01 23:23 点击:300
四
金が入ると、甲は、いままでのようにじっとしていることができませんでした。上等の網を買いました。また、いい着物をみんなが買いました。また、町へ出て見物に歩きました。
「金がなくなったら、また働くばかりだ。」と、甲はいいました。
そのうちに、真珠を売った金は、すっかりなくなってしまいました。甲は、ふたたび乙といっしょに海の上へ出て働くことになりました。けれど、昔のように、おちついて釣りをしたり、網を打ったりしていることができなかった。魚がとれると、かたっぱしから腹を割って見ていました。そして、真珠をのんでいないと、みんなその魚の屍を海の中にほうりこんでしまいました。
「甲さん、なんでそんな乱暴なことをするんですか。」と、乙はびっくりしていいます。
「今度、真珠を見つけたら、その金で町へ出て商売をするのです。もう、私は、魚とりなんか問題にしていない。」といって、ところかまわず網を打ちました。けれど、もう二度と真珠をのんでいる魚はなかったのです。
甲は、とうとう自分のおろかなことがわかる日がきました。そして、おちついて魚をとって、それをばまた町に売って生活をしたときには、まったく昔にもまさる貧乏になって、上等の網に破れめができたときです。
乙は、さおを大事にして釣りをしました。そして、甲の恩義を長く感じて、甲の困ったときは助けてやりましたので、甲はいまさらながら、一本の釣りざおを貴く思ったのであります。
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