一本の釣りざお(3)
日期:2022-09-01 23:23 点击:299
三
甲は、これがために思いもよらない大金が手に入ることになりまして、その翌日から甲は、しばらく海の上に出ることを休みました。こんなときに、骨休みをしなければならないといったのです。
乙は、独りで海の上に出てゆきました。雨が降っても、風が吹いても出てゆきました。それを見ると、甲は、あまりいい気持ちがしなかったのです。なんだか自分独り楽をしているのが悪いように思われたのです。
「乙さん、あまりたくさんな金は融通もできないが、すこしくらいならいたしましょう。」と、ある日、甲は乙にいいました。
乙は、考えていましたが、
「それでは、まことにすまないが、私に、さおを買うだけの金を貸してください。いまのさおでは、思うように釣りができないから、もっといいさおが欲しいものです。」と答えた。
甲は、内心、いくらいいさおを買っても釣れるときは釣れるが、釣れないときには、やはり釣れない。すべて人間のことは運だ、俺のようなものだと思いながら、
「それはお安いことだ。」といって、わずかばかり金を貸してくれました。乙は、その金で手ごろのさおを求めました。
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