一本の銀の針(2)
日期:2022-09-01 23:23 点击:301
二
おじいさんは、孫がいよいよ船出をするというので、夜もおそくまで起きていて、船に張る帆を縫っていました。どんな強い風に当たっても裂けぬように、またどんなに雨や波にぬらされても、破れぬようにと、念に念をいれて造っていました。
妹は、兄さんといっしょになって、船出の許しをおじいさんに頼んだものの、兄の身の上が案じられてしかたがありませんでした。
「どうかして、兄さんが無事に、出ていって帰ってこられるように。」と、祈ったのであります。
その日も、妹は、兄のことを心配しながら道を歩いてくると、さびしいところに小川が流れていて、そこに、狭い橋がかかっており、一人のおばあさんが、その橋を渡ることができずにこまっていました。
だれも、人が通らなかったので、だいぶ長い間ここに、こうしておばあさんは立っているものと思われたのであります。
妹は、そのおばあさんを見ると気の毒になりました。自分がどうかして手でも引いて渡らせてあげようと、そばへいってみますと、おばあさんは盲目でありました。
妹は、びっくりしました。こんな盲目がどうして、このあたりまで一人でやってこられたろうかと思われました。
「どんなにか、おばあさん、お困りでしたでしょう。私が手を引いてあげます。」と、妹はいいました。
すると、盲目のおばあさんは、
「どうかおぶって、渡しておくれ。」と、それがあたりまえであるというような調子で答えたのです。
妹は、ずいぶん横着なおばあさんだと心に思いました。また自分がおぶっては、あぶなくて渡られないからでした。
「お手を引いてあげましょう。」
「いいえ、おぶってもらいましょう。」と、おばあさんは、頭を振っていいました。
妹はしかたなく、苦心をして、そのおばあさんをおぶって、ようよう橋を渡ることができました。すると、盲目のおばあさんは、もう白くなった髪の毛を探って、その中から一本の銀の針を取り出しました。
「この針は、不思議な、どんな願いごともかなう針だから、これをおまえさんにお礼としてあげる。けっして、みだりに他人にやったり、見せたりしてはならぬ。」といって、おばあさんは銀の針を妹にくれました。
妹は、喜んで家に帰りました。そして、その晩に、おじいさんが帆を縫うてつだいをして、おばあさんからもらった銀の針で、どうか兄さんが無事に帰ってきてくださるようにと祈りながら縫いました。細い銀の針では、厚い布がよく通りそうもないのに、よく通りました。不思議な針だから、きっとおじいさんの造ってくださった帆は、けっして、風にも、雨にも、破れないであろうと思いました。
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