あらしの前の木と鳥の会話(2)
日期:2022-09-19 06:00 点击:258
二
たかは、曲がったくちばしを、木の皮で磨いて、聞いていました。
「それは、いいところに気がついたものだ。さっそく、視察に、だれか、やったらいい。おまえさんには、だれがいいか、心あたりはありませんか。」と、たかは、ひのきの木にたずねました。
ひのきの木は、うなずきました。
「それは、やはり、人間の姿をしたものでなければ、この役目は、果たされないだろう。幸い、あの乞食の子を、にぎやかな街へやることにしよう。あの子には、俺も、おまえも、いろいろ世話をしてやったものだ。」
「私は、あの子に、他所から、くつをくわえてきてやった。また、着物をさらってきてやったことがある。」と、たかはいいました。
ひのきの木は、身動きをしながら、
「俺は、あの子に、いろいろな唄の節を教えてやったものだ。また、あの子が父親といっしょに、この木の下にいる時分は、雨や、風をしのいでやったものだ。蔭になり、ひなたになりして護ってやったことを、あの子は、よく憶えているはずだ。あの子は、俺の荒い肌をさすって、小父さん、小父さんといったものだ。」
「あの子なら、いいだろう。」
「あの子なら、だいいちに、心から俺たちの味方なんだ。」
こういって、古いひのきの木と、年とったたかとは、話をしていました。
夕方になると、父親と子供とは、ひのきの木の下に、どこからか帰ってきました。子供は、木の枝で造った、胡弓を手に持っていました。
二人は、そこにあった小舎の中に、身を隠しました。
「父ちゃん、さびしいの。」と、子供はいいました。
「ああ、さびしい。」
「父ちゃん、なにか、おもしろい話をして、聞かしておくれよ。」と、十一、二の男の子は、父親に頼みました。
「そんなに、さびしければ、あした街へいってみろ! 町へゆきゃ、おもしろいことがたんとあるぞ。独りでいって見てこい。おらあ、ここに待っている。帰ったら、見てきたことをみんな聞かしてくれ。」と、父親はいいました。
子供は、黙っていました。
このとき、頭の上のひのきの木に風が当たって、鳴っていました。その音を聞いていると、
「それがいい。それがいい。」といっているようでした。
「いってみようかしらん。あしたは、天気だろうか?」と、子供はいって、小舎の入り口から、くりのまりのような、毛ののびたくびを出して、空の景色をながめると、林の間から、雲切れのした、青い空の色が、すがすがしく見られたのです。そして、たかの空を舞って鳴く声が聞こえました。
「いってみろ! いってみろ!」
たかは、こう叫んでいました。
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