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びんの中の世界(2)
日期:2022-12-07 23:59  点击:260
 
それで、正坊まさぼうは、まさしくこの人ひとだと思おもいましたから、その男おとこのすすめるままに、いってみようと、即座そくざに決心けっしんしました。
男おとこは、自分じぶんの脇わきに正坊まさぼうを乗のせて、馬うまにむちを当あてました。その馬うまの脚あしは速はやかったのです。森もりや、川かわや、丘おかを過すぎてゆくと、いろいろの美うつくしい花はなの咲さいた野原のはらに出でました。はるか、あちらを見みると、町まちの屋根やねが地平線ちへいせんに浮うき上あがって見みえたのです。
「あ、いつかびんの口くちから、のぞいて見みた景色けしきだ!」と、正坊まさぼうは、思おもいました。
「おじさん、どこへゆくの……。」と、正坊まさぼうはたずねた。
「あの町まちへゆくのだ。」と、男おとこは、答こたえました。
やがて町まちへはいろうとすると、建物たてものの間あいだから、青黒あおぐろい海うみが見みえました。
町まちへはいって、しばらく走はしると、馬うまは、ひさしの深ふかく差さし出でた、昔むかしふうの家うちの前まえへきて止とまりました。男おとこは馬うまから降おりて、内うちへ向むかって声こえをかけました。すると脊せの低ひくい老人ろうじんが、腰こしを曲まげて出でてきました。
「お父とうさん、ようやく、あなたが、もう一度ど見みたいとおっしゃられたびんを持もってきました。これでございましょう……。」
老人ろうじんは、歯はの抜ぬけた口くちをもぐもぐさしていましたが、細ほそい、しわだらけの手てを出だして、びんを受うけ取とりました。そして、びんのまわりをなでまわしていましたが、その口くちに目めをあてて正坊まさぼうがするように、太陽たいように向むかって仰あおいだのです。
「あ、これ、これ、これにちがいない!」と、老人ろうじんはうれしそうにわめきました。
「私わたしは、やっと、このびんにめぐりあった。もはや、一生しょうのうちに、めぐりあわないかと思おもっていた。しかし、おまえのおじいさんは、死しになされたとみえる……。」
老人ろうじんは、びんを持もって、暗くらい家いえの内うちへはいりました。しばらくたつと老人ろうじんは、びんの中なかへ、ほんとうにわずかばかりの油あぶらをいれて二人ふたりの前まえへあらわれました。
「永年ながねんしまっておいた油あぶらは、もうこればかしになってしまった。もうすこし長ながく月日つきひがたったら、油あぶらは、一滴てきもなくなってしまっただろう……。
私わたしが、海うみの上うえで生活せいかつをしていた時分じぶん、兄弟きょうだいの約束やくそくをした仲間なかまがあった。二人ふたりは、たがいに助たすけつ、助たすけられつした。そして、別わかれる時分じぶんに、二人ふたりは、もう一度どたずね合あってあいたいというまじないから、インドの魔法使まほうつかいからもらったびんと中身なかみの油あぶらとを別々べつべつに持もって帰かえった。こうすれば、いつか、びんと油あぶらは、かならずめぐりあうといった魔法使まほうつかいの言葉ことばを信しんじたのだ。子供こども! おまえのおじいさんは、黒くろい板いたを持もっていなされたろう……。この油あぶらをともして、その板いたを見みるがよい……。」といって、油あぶらのはいったびんを正坊まさぼうに渡わたしたのでした。
正坊まさぼうは、この町まちと、このおじいさんと、この家うちをよくおぼえておこうと熱心ねっしんにながめていました。
男おとこは、ふたたび、正坊まさぼうを馬うまに乗のせてくれました。そして自分じぶんも乗のり、馬うまにむちを当あてると、馬うまはきた時分じぶんの道みちを走はしり出だしました。日ひは、いつしか海うみに沈しずんで、野原のはらに咲さいている赤あかい花はなも黒くろずんで見みえたのであります。そして、月つきが大空おおぞらに上あがり、その下したを流ながれている川かわの水みずが、一筋ひとすじの銀ぎんの棒ぼうを置おいたように、白しろく光ひかって見みえたのでした。
二人ふたりを乗のせた馬うまは、村むらの往来おうらいまでくると止とまりました。そこからは、もう、正坊まさぼうのお家うちがじきだったのです。
「さあ、もうここからなら、ひとりで帰かえれるだろう。」といって、男おとこは、正坊まさぼうを馬うまの脊せから下おろしてくれました。
「おじさん、あの町まちは、なんというの?」と、正坊まさぼうは、振ふり返かえって問といました。
「…………」と、男おとこは、いい残のこして、馬うまにむちをあてて去さりました。
正坊まさぼうは、男おとこのいった言葉ことばが、よく、はっきりと耳みみにはいらなかった。そのうちに、ひづめの音おとは遠とおざかり、影かげは、月つきの明あかりに、だんだん小ちいさくかすんだのです。
おばあさんは、門もんから出でたり、入はいったりして、正坊まさぼうを探さがしていられた。そこへ、正坊まさぼうは帰かえって、その日ひのできごとの話はなしをすると、おばあさんは、頭あたまを振ふって、
「ばか、なにをいう。きっと、おまえは、きつねにでもばかされたのだろう……。」といわれました。
正坊まさぼうは、町まちの名なを聞ききもらしたのが残念ざんねんでした。おそらくそのことは、永久えいきゅうに、彼かれにとって残念ざんねんであったにちがいない。なぜなら子供こどもの頭あたまで、いつまでも、町まちをおぼえていることは不可能ふかのうであったから……。
しかし、それが夢ゆめでないことは、びんの中なかに油あぶらがはいっていたことでした。すぐに、土器かわらけにうつして、火ひをつけて、正坊まさぼうは、おばあさんと二人ふたりで、黒くろい板いたを見みました――。
異様いような、帆船はんせんの姿すがたが、ありありと板いたの面おもてに見みえたかと思おもうと、また、その姿すがたは、煙けむりのごとく、しだいにうすれて消きえてしまった。
 

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