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港に着いた黒んぼ(3)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3379
 
白鳥はくちょうは、その目めに見みえない細ほそい糸いとの、切きれては、また、つづくような、悲かなしい音色ねいろがどこから聞きこえてくるかと翼つばさをゆるやかに刻きざんで、しばらくは夜よるの空そらをまわっていましたが、やがて、広場ひろばから起おこることを知しりました。白鳥はくちょうは、注意深ちゅういぶかくその広場ひろばに降おりたのであります。そして、そこに、一人ひとりの少年しょうねんが草くさの上うえにすわって、笛ふえを吹ふいているのを見みました。
白鳥はくちょうは、少年しょうねんに近ちかづきました。
「どうして、こんなところに、たった一人ひとりで笛ふえを吹ふいているのですか。」とたずねました。
盲目めくらの少年しょうねんは、やさしい声こえで、だれかこうしんせつに聞きいてくれましたので、少年しょうねんは、姉あねが自分じぶんをここに置おいて、どこへかいってしまったことをありのままに告つげました。
「ほんとうに、かわいそうに。わたしが、姉ねえさんにかわってめんどうを見みてあげます。わたしは、子供こどもをなくした白鳥はくちょうです。これから、あちらの遠とおい国くにへ帰かえろうと思おもっています。二人ふたりは、南みなみの国くにへいって、波なみの穏おだやかな岸辺きしべで笛ふえを吹ふいたり、踊おどったりして送おくりましょう。わたしは、いまあなたをわたしとおなじ白しろい鳥とりの姿すがたにしてあげます。海うみを越こえ、山やまを越こえてゆくのですから……。」と、白鳥はくちょうはいいました。
ついに、盲目めくらの少年しょうねんは、白しろい鳥とりとなりました。夜よるのうちに、二羽わの白鳥はくちょうは、このさびしい、暗くらい広場ひろばから飛とびたって、ほんのりと明あかるく、空そらを染そめた港みなとを見下みおろしながら、その上うえを過すぎて、遠とおくいずこへとなく、消きえ去さってしまったのであります。後あとには、空そらに星ほしが輝かがやいていました。大地だいちは黒くろく湿しめって、草木くさきは音おとなく眠ねむっていました。
姉あねは、それから程経ほどへて、大尽だいじんの屋敷やしきからもどってきました。思おもったより、たいへんに時間じかんがたったので、弟おとうとはどうしたろうと心配しんぱいしてきたのであります。けれど、そこには、弟おとうとの姿すがたが見みえませんでした。どこを探たずねても見みえませんでした。星ほしの光ひかりが、かすかに地ちの上うえを照てらしています。そこには、いままで目めに入はいらなかった月見草つきみそうが、かわいらしい花はなを開ひらいていました。そして、これもいままで見みなかった、姉あねの青あおい着物きもののえりに、宝石ほうせきが星ほしの光ひかりに射いられて輝かがやいていました。
明あくる日ひから、姉あねは、狂人きちがいのようになって、すはだしで港みなとの町々まちまちを歩あるいて、弟おとうとを探さがしました。
月つきの光ひかりが、しっとりと絹糸きぬいとのように、空そらの下したの港みなとの町々まちまちの屋根やねを照てらしています。そこの、果物屋くだものやには、店頭みせさきに、遠とおくの島しまから船ふねに積つんで送おくられてきた、果物くだものがならんでいました。それらの果物くだものの上うえにも、月つきの光ひかりが落おちるときに、果物くだものは、はかない香かおりをたてていました。また、酒場バーでは、いろいろの人々ひとびとが集あつまって、唄うたをうたったり、酒さけを飲のんだりして笑わらっていました。その店頭みせさきのガラス戸どにも、月つきの光ひかりはさしています。また、港みなとにとまっている船ふねの旗はたの揺ゆれている、ほばしらの上うえにも月つきの光ひかりは当あたっています。波なみは、昔むかしからの、物憂ものうい調子ちょうしで、浜はまに寄よせては返かえしていました。
姉あねは、あてもなくそれらの景色けしきをながめ、悲かなしみに沈しずみながら、弟おとうとをさがしていました。けれど、弟おとうとは、どこへいったのかわかりませんでした。
一日にち、この港みなとに外国がいこくから一そうの船ふねが入はいってきました。やがて、いろいろなふうをした人々ひとびとが、港みなとの陸おかへうれしそうに上あがってきました。なんでも、南みなみの方ほうからきたので、人々ひとびとの姿すがたは軽かるやかに、顔かおは日ひに焼やけて、手てには、つるで編あんだかごをぶらさげていました。それらの群むれの中うちに、見みなれない、小人こびとのように脊せの低ひくい、黒くろんぼが一人ひとり混まじっていました。
黒くろんぼは、日当ひあたりの途みちを歩あるいて、あたりを物珍ものめずらしそうに、きょろきょろとながめながらやってきますと、ふと、町角まちかどのところで、うす青あおい着物きものをきた娘むすめに出であいました。娘むすめは黒くろんぼを、物珍ものめずらしそうに振ふり返かえりますと、黒くろんぼは立たち止どまって、不思議ふしぎそうに、娘むすめの顔かおを見みつめていましたが、やがて近寄ちかよってまいりました。
「あなたは、南みなみの島しまで、唄うたをうたっていた娘むすめさんではありませんか。いつ、こちらにこられたのですか。私わたしは、あちらの島しまをたつ前まえの日ひに、あなたを、島しまで見みましたはずですが。」と、黒くろんぼはいいました。
姉あねは、不意ふいに問といかけられたのでびっくりして、
「いえ、わたしは南みなみの島しまにいたことはありません。それはきっと人違ひとちがいです。」と答こたえました。
「いや、人違ひとちがいでない。まったくあなたでした。水色みずいろの着物きものをきて、盲目めくらの十とおばかりになる、男おとこの子こが吹ふく笛ふえの調子ちょうしに合あわせて、唄うたをうたって踊おどっていたのは、たしかにあなたです。」と、黒くろんぼは疑うたがい深ぶかい目めつきで、娘むすめをながめながらいいました。
姉あねは、これを聞きくと、さらにびっくりしました。
「十とおばかりの男おとこの子こが笛ふえを吹ふいている? そして、その子供こどもは盲目めくらなんですか?」
「それは、島しまでたいした評判ひょうばんでした。娘むすめさんが美うつくしいので、島しまの王おうさまが、ある日ひ金きんの輿こしを持もって迎むかえにこられたけれど、娘むすめは弟おとうとがかわいそうだといって、お断ことわりしてゆきませんでした。その島しまには、白鳥はくちょうがたくさんすんでいますが、二人ふたりが笛ふえを吹ふいたり、踊おどったりしている海岸かいがんには、ことにたくさんな白鳥はくちょうがいて、夕暮ゆうぐれ方がたの空そらに舞まっているときは、それはみごとであります。」と、黒くろんぼは答こたえて、それなら、やはり、この娘むすめは人違ひとちがいかというような顔かおつきをしていました。
「ああ、わたしは、どうしたらいいだろう。」と、姉あねは、自分じぶんの長ながい髪かみを両手りょうてでもんで悲かなしみました。
「もう一人ひとり、この世よの中なかには、自分じぶんというものがあって、その自分じぶんは、わたしよりも、もっとしんせつな、もっと善良ぜんりょうな自分じぶんなのであろう。その自分じぶんが、弟おとうとを連つれていってしまったのだ。」と、姉あねは胸むねが張はり裂さけそうになって、後悔こうかいしました。
「その島しまというのは、どこなんですか。わたしは、どうかしていってみたい。」と、姉あねはいいました。
黒くろんぼは、このとき、港みなとの方ほうを指ゆびさしながら、
「ずっと、幾いく千里りとなく遠とおいところに、銀色ぎんいろの海うみがあります。それを渡わたって陸おかに上あがり、雪ゆきの白しろく光ひかった、高たかい山々やまやまが重かさなっている、その山やまを越こえてゆくので、それは、容易よういにゆけるところでない。」と答こたえました。
このとき、夏なつの日ひは暮くれかかって、海うみの上うえが彩いろどられ、空そらは、昨日きのうのように真まっ赤かに燃もえて見みられました。
 

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10/02 13:28