もち屋の禅問答
论道机锋
むかしむかし、あるところに、とても大きなお寺がありました。
很久很久以前,某处,有一座大庙宇
寺はとても立派ですが、困った事に、この寺の和尚(おしょう)ときたら、勉強が嫌いな上に物知らずです。
虽是十分立派的一座庙,惭愧的是,这个庙的主持,怠懒精进的以上且一无所知。
さて、ある日の事、一人の旅の坊さんがやって来て、
再来,一日,来一行僧,
「それがし、禅問答(ぜんもんどう)をいたそうとぞんじてまかりこしたが、寺の和尚どのはおられるかな」
不才,欲论机锋跋涉而来,敢问主持何在?
と、ちょうど玄関の掃除をしていた、この寺の和尚さんに尋ねたのです。
さあ問答と聞いて、和尚さんはビックリしました。
如是,刚好问到的就是正在玄关扫地的主持,一听要问法,吓了一跳。
相手は、仁王(におう)さまの様な大男。
对方,如仁王而立。
しかも、あちこちの寺を回り歩いては問答を仕掛け、一度も負けた事はござらぬという顔です。
而且,四处走访问道,一次也没有输过的表情。
(こりゃあ、どえらい事になったわい。一体どうしたもんじゃろう。・・・そうじゃ。もち屋の六助(ろくすけ)がよい)
这下是个大案子啊,这是要怎么搞,对了,年糕屋的六助让他帮忙
と、思いつき、ともかく旅の僧を本堂に案内して、
如此案定,总之先将行者领入本殿
「和尚さまは、ただいま、お留守にございますが、近くにまいっておられますので、さっそく呼んでまいりましょう」
方丈,暂且外出,就在近处,这便去唤他。
言い終わると転げる様に、もち屋の六助の家へ行きました。
语毕,飞也似的,往饼店老板六助家急行。
「六助どの。たった今、これこれ、しかじか。ぜひわしの身代わりになって、問答をやって下され」
柱啊,刚刚,如此如此,这这般,绝必代替我,与其论道。
と、両手を合わせて頼みました。
如是,合十而依请助。
日頃から信心(しんじん→神仏を思う気持ち)深い、もち屋の六助は、
平日起礼佛不怠,明心见性,年糕店的饼老板六助,
「へえ、和尚さまのお為なら」
好,依你。
と、引き受けました。
承接。
六助は和尚さんの部屋で着替えると、しずしずと本堂に入って旅の僧と向かい合いました。
六助在主持房间换上衣服,镇慎徐入本堂,与行者相对而合。
和尚さんが隠れて様子を見ていると、さっそく、もち屋と旅の僧の問答が始まりました。
方丈隐其身姿而窥,时逝,机锋乘势而起。
「白扇(はくせん)さかしまにかかる東海(とうかい)の天」
白扇倒悬东海天
旅の坊さんが、口を開きました。
行者,起言。
雪をいただいた富士山(ふじさん)が、白い扇(おおぎ)を逆さまにかけた様に海にうつっているが、そのながめはいかに?
雪覆蓬莱,映白扇倒悬之姿,何种风情?
と、聞いたのですが、訳の分からないもち屋の六助は、うんともすんとも言いません。
对面虽是开问,不明白这啥玩意的饼老板,是也好不是也好一句答不上来。
すると、旅の僧が、
于是,行者,
「和尚どのは、無言(むごん)の行(ぎょう)でおわすか?」
尊者莫是在止语期间?
と、聞きました。
如是,语。
「・・・・・・」
六助は、それにも答えません。
饼老板,这个也答不上来。
二人の間で、無言の行が始まりました。
两人,再开无言之行。
しばらくして旅の僧が右手を上げて、人差し指と親指とで小さな輪を作れば、六助はそれを見て両手を上げて大きな輪(わ)を作りました。
不时,行者右手轻仰, 示亲双指做轮 ,六助见此,双手高举合依做大轮。
すると旅の僧は、おそれいったという様子で丁寧に頭を下げます。
见此,行者显惶恐之姿,礼示而头轻俯,
そして今度は、人差し指を一本突き出して見せました。
于是此次,单一示指出而示。
六助は素早く、五本の指をパッと開きます。
六助顷刻开掌呈五指。
旅の僧は、また丁寧に頭を下げました。
行者,再礼示俯首而沉。
今度は三本の指を、高く差し上げました。
此回行者三指高伸。
するとそれを見た六助は、アカンベエをしたのです。
见此行,六助露鄙夷之姿。
それを見た旅の僧は、あわてて両手をついて、
此回,行者行乱身难支, 俯首而拜。
「ははーっ」
呜呼哀哉
と、頭をたたみにすりつけると、逃げる様にして寺から出て行きました。
俯首引地而惧举,徐徐而走。
和尚さんは、ホッと胸をなで下ろしました。
主持,抚胸心沉。
それにしても今の問答は、何とも訳が分かりません。
然后,此回机锋语毕,完全不晓得是什么东西。
そこで和尚は、小僧を呼んで、
进而和尚唤小僧
「お前、今の僧が泊まっておる宿(やど)ヘ行って、訳を聞いて来い」
你,给我把行者落脚的住处去了,给我问出个碌头。
と、言いつけました。
如是,吩咐。
宿にやって来た寺の小僧さんを前にして、旅の僧は冷や汗を拭きながら言いました。
面对来宿的小僧,行者汗流如柱而拭,
「いやはや、わしも天下の寺でらを歩いて問答をいたしたが、今日ほど、えらいめおうた事はない。
呜呼哀哉,不才行天下走四方闻道取惑,不曾遭今日此愧。
まずわしが、この様に輪を作って、
我先是做这样的一个圈,
『太陽は、いかに?』
阳炎,何为?
と、問いかけたのじゃ。
启问。
すると和尚どのは、
随后主持,
『世界を照らす!』
莲华圣耀照大千!
と、大きな輪を作って見せて下された。
作大圆而示。
次に、
然后,
『仏法は、いかに?』
正法何如?
と、人差し指を差し出すと、パッと五本の指を出されて、
承示指伸,五指而应。
『五界を照らす!』
无愆何赦宥五趣!
と、答えなさる。
应。
負けてはならじと、三本の指を出して、
我不愿示弱,出三指而示。
『三仏身(さんぶつしん)は、これいかに?』
般若波罗蜜三貌三菩提心,何如?
と、問いもうした。
请惑。
すると和尚どのは、『目の下にあり』と、答えなされたのじゃ」
而后,主持眼轻藐,而无应。
そこまで言うと旅の僧は、しみじみと小僧さんの顔を見て、
说到这儿,行者,见小僧颜如临渊籔。
「お前さんはまだ年が若いで知るまいが、
你尚年幼可能还未知。
三仏身とは、すなわち法身(ほっしん)・報身(ほうしん)・応身(おうしん)のご三体で、ほっしんとは宇宙の法理であって、光明かがやく仏さま。
三身,即,法身,报身,应身, 法身乃混沌宇宙之理,燃燈仏圣祖。
ほうしんとは、世のもろもろの悪を清め、われわれ人間はじめ全ての生物をお救いなさる阿弥陀如来(あみだにょらい)さま。
报身,即,疏世界一切恶,以你我为首的世间万物引渡的弥陀仏尊长。
おうしんとは、ときに応じて、われわれを導く為に現れなさるお方、いわばお釈迦(しゃか)さまじゃ。
应身,即,伺机而应,扫霾开惑而现,也就是悉达多祖師。
このもったいないお三方が、和尚どのの目下にあるとは、ああ、なんと、なんと」
此三方,住持竟目露轻藐,啊,呜呼哀哉。
旅の僧は涙ぐんで、小僧さんの前に手をつくと、
行者眼催泪,体难立,以手而支身。
「まことに、まことに、あの様なお方にお目にかかるばかりか、問答などをいたしまして、いやはや、面目(めんもく)しだいもございませぬ」
非但有幸能见识如此之人,机锋相对,啊,唯感其自身秽意。
と、わびるように言いました。
落魄低吟。
小僧さんは、
小僧见此,
(ヒェー! あのもち屋の六助さんが)
啊,那个饼店的六助。
と、ビックリして寺ヘ帰って来ました。
惊异状朝寺庙而归。
すると、これはまたどうした事か、六助さんは和尚さんを前にしてカンカンに怒っています。
这一回,这又是怎么一回事,六助在主持前怒火难抑而振。
小僧は六助さんの前に手をついて、ていねいに、
小僧面朝六助俯首拜叩,深用心状。
「もし、もし。六助さま。一体、どうなさいました?」
啊,六助居士,何故动怒?
と、尋ねると、もち屋の六助は、
如此打听,饼老板六助,
「なさいましたも、クソも、ないもんだ。えーい、わしゃ、この年まで色んな人におうてきたが、今日の坊主ほど、ずうずうしい奴におうた事はないわい」
没有啥发不发生的,欸,我长这么大也碰到过各种人,米碰到过脸皮这么厚的。
「・・・?」
「あのクソ坊主め。手真似で小さな輪を作って、
那个狗屎和尚,用手比划一个小圆,
『お前のもちは、これくらいか?』
你屋做的饼是这么大的一个吗?
と、聞きおった。
问我。
わしは腹が立って、こんちくしょうとばかり両手で、でっかい奴を作って見せたわい。
我一肚子火,真是条畜生,我两手一并做一条大圆让他看。
すると今度は、人差し指を差し出して、
然后这次,指一根手指头出来,
『それはいくらか?』
什么价格?
と、聞く。
问我。
わしが、
我港,
『五厘じゃ!』
五厘!
と、五本の指を出せば、坊主め、三本の指を出しおって、
出五根手指头,贱和尚手指头伸三根,
『三厘にまけろ』
三厘卖起我
と、ぬかしおった。
我就没正眼看他了。
あんまり腹が立ったもんで、わしゃ、アカンベエをしてやったわい」
太怄了,故此鄙夷
と、言ったのです。
这样说道。