「あの夜、このあたりで誰か見かけなかった」ハリーも聞いた。
「そんなこと、気にしていられなかったわ」マートルは興こう奮ふん気ぎ味みに言った。
「ピーブズがあんまりひどいものだから、わたし、ここに入り込こんで自じ殺さつしようとしたの。そしたら、当然だけど、急に思い出したの。わたしって――わたしって――」
「もう死んでた」ロンが助け舟を出した。
マートルは悲ひ劇げき的てきなすすり泣きとともに空中に飛び上がり、向きを変えて、真っ逆さかさまに便器の中に飛び込んだ。三人に水みず飛沫しぶきを浴あびせ、マートルは姿を消したが、くぐもったすすり泣きの聞こえてくる方向からして、トイレのユー字じ溝こうのどこかでじっとしているらしい。
ハリーとロンは口をポカンと開けて突っ立っていたが、ハーマイオニーはやれやれという仕し種ぐさをしながらこう言った。
「まったく、あれでもマートルにしては機き嫌げんがいいほうなのよ……さあ、出ましょうか」
マートルのゴボゴボというすすり泣きを背に、ハリーがトイレのドアを閉めるか閉めないかするうちに、大きな声が聞こえて、三人は飛び上がった。
「ロン」
階かい段だんのてっぺんでパーシー・ウィーズリーがピタッと立ち止まっていた。監かん督とく生せいのバッジをきらめかせ、徹てっ底てい的てきに衝しょう撃げきを受けた表情だった。