ハリーはいろいろと普通ではなかったが、この傷はとくに尋じん常じょうではなかった。十年間、ダーズリー夫妻ふさいは、この傷は、ハリーの両親が自動車事故で死んだ時の置き土産みやげだと偽いつわり続けてきた。実はリリーもジェームズ・ポッターも、車の衝しょう突とつ事故で死んだのではなかった。殺されたのだ。過去百年間でもっとも恐れられた闇やみの魔法使い、ヴォルデモート卿きょうの手にかかったのだ。ハリーもその時襲おそわれたが、額に傷を受けただけでその手を逃のがれた。ヴォルデモートの呪のろいは、ハリーを殺すどころか、呪った本人に撥はね返り、ヴォルデモートは命からがら逃げ去った……。
しかし、ハリーはホグワーツに入学したことで、再びヴォルデモートと真正面から対たい決けつすることになった。暗い窓辺まどべにたたずんで、ヴォルデモートと最後に対決した時のことを思い出すと、ハリーは、よくぞ十三歳さいの誕たん生じょう日びを迎むかえられたものだ、それだけで幸運だった、と思わざるをえなかった。
ハリーはヘドウィグがいないかと星空に目を走らせた。嘴くちばしに死んだネズミをくわえて、誉ほめてもらいたくてハリーのところにスィーッと舞まい降おりてきはしないか。家いえ々いえの屋根を何気なしに見つめていたハリーは、しばらくして何か変なものが見えるのに気づいた。
金色の月を背に、シルエットが浮かび、それが刻こっ々こくと大きくなった。大きな、奇き妙みょうに傾いた生き物だった。羽撃はばたきながらハリーのほうへやってくる。ハリーはじっとたたずんだまま、その生き物が一段また一段と、沈むように降りてくるのを見つめていた。ハリーは窓の掛かけ金がねに手をかけ、ピシャリと閉めるべきかどうか、一いっ瞬しゅんためらった。その時、その怪あやしげな生き物がプリベット通りの街がい灯とうの上をスィーッと飛び、ハリーは、その正体がわかって脇わきに飛びのいた。