「おめえさんが合図あいずする前には、おれたちゃここにいたんだ。アーン、ここぁどこだい? ウェールズのどっかかい?」
「あぁ」アーニーが答えた。
「このバスの音、どうしてマグルには聞こえないの?」ハリーが言った。
「マグル!」スタンは軽けい蔑べつしたような声を出した。「ちゃーんと聞いてねえのさ。ちゃーんと見てもいねえ。なーんも、ひとーっつも気づかねえ」
「スタン、マダム・マーシを起こしたほうがいいぞ。まもなくアバーガブニーに着く」
アーニーが言った。
スタンはハリーのベッド脇わきを通り、狭い木の階段を上って姿が見えなくなった。ハリーはまだ窓の外を見ていた。だんだん心細くなってくる。アーニーのハンドルさばきはどう見てもうまいとは思えない。「ナイト・バス」はしょっちゅう歩道に乗り上げた。それなのに絶ぜっ対たい衝しょう突とつしない。街がい灯とう、郵便ポスト、ゴミ箱、みんなバスが近づくと飛びのいて道を空あけ、通り過ぎると元の位置に戻もどるのだった。
スタンが戻ってきた。その後ろに旅行用マントに包くるまった魔女が緑色の顔を青くしてついてきた。
「マダム・マーシ、ほれ、着いたぜ」
スタンがうれしそうに言ったとたん、アーンがブレーキを踏ふみつけ、ベッドというベッドは三十センチほど前につんのめった。マダム・マーシはしっかり握にぎりしめたハンカチを口元に当て、危あぶなっかしげな足取りでバスを降おりていった。スタンがそのあとから荷物を投げ降ろし、バシャンとドアを閉めた。もう一度バーンがあって、バスは狭い田舎いなか路みちをガンガン突き進んだ。行く手の立ち木が飛びのいた。
ハリーは眠れなかった。バスがバーンバーンとしょっちゅう大きな音をたてなくても、一度に一〇〇キロも二〇〇キロも飛びはねなくても、眠れなかっただろう。いったいどうなるんだろう、ダーズリー家けではマージおばさんを天てん井じょうから下ろすことができたんだろうか、という思いが戻ってくると、胃い袋ぶくろが引っくり返るようだった。