「あんなとこに足を踏ふみ入れるぐれぇなら、おれなら自爆じばくするほうがましだ。ただし、ヤツにはいい見せしめというもんだ……あんなことしたんだし……」
「あとの隠いん蔽ぺい工こう作さくがてぇへんだったなぁ、アーン? なんせ通りがふっ飛ばされちまって、マグルがみんな死んじまってよ。ほれ、アーン、なにが起こったってことにしたんだっけ?」
「ガス爆発だ」アーニーがブスッと言った。
「そんで、こんだぁ、ヤツが逃げた」スタンは、頬ほおの削そげ落ちたブラックの顔写真をしげしげと見た。
「アズカバンから逃げたなんてぇ話は聞いたことがねぇ。アーン、あるか? どうやったか見当もつかねぇ。おっそろしい、なぁ? どっこい、あの連れん中ちゅう、ほれ、アズカバンの守しゅ衛えいのよ、あいつらにかかっちゃ、勝ち目はねぇ。なぁ、アーン?」
アーニーが突とつ然ぜん身み震ぶるいした。
「スタン、なんか違うこと話せ。たのむからよ。あの連中、アズカバンの看かん守しゅの話で、俺は腹はら下くだしを起こしそうだよ」
スタンはしぶしぶ新聞を置いた。ハリーはバスの窓に寄より掛かかり、前よりもっと気分が悪くなっていた。スタンが数日後に「ナイト・バス」の乗客に何を話しているか、つい想像してしまう。
「『アリー・ポッター』のこと、きーたか? おばさんをふくらましちまってよ! この『ナイト・バス』に乗せたんだぜ、そうだなぁ、アーン? 逃げよーって算さん段だんだったな……」
ハリーもシリウス・ブラックと同じく、魔法界の法ほう律りつを犯おかしてしまった。マージおばさんを膨ふくらませたのは、アズカバンに引ひっ張ぱられるほど悪いことだろうか? 魔法界の監かん獄ごくのことは、ハリーは何も知らなかったが、他の人が口にするのを耳にしたかぎりでは、十人が十人、恐ろしそうにその話をした。森番のハグリッドはつい一年前、二ヵ月をアズカバンで過ごした。どこに連れん行こうされるか言い渡された時、ハグリッドが見せた恐きょう怖ふの表情を、ハリーはそう簡単に忘れることができなかった。しかも、ハグリッドはハリーが知るかぎり、もっとも勇ゆう敢かんな人の一人なのだ。