グリンゴッツの金庫からガリオン金貨きんか、シックル銀貨ぎんか、クヌート銅貨どうかを引き出し、巾きん着ちゃくを一いっ杯ぱいにしたあとは、一度に全部使ってしまわないようにするのに、相当の自じ制せい心しんが必要だった。あと五年間ホグワーツに通かようのだ、呪じゅ文もんの教科書を買うお金をダーズリーにせがむのがどんなに辛つらいことか考えろと、しょっちゅう自分自身に言い聞かせ、やっとのことで、純じゅん金きんの見事なゴブストーン・セットの誘ゆう惑わくを振りきった(ゴブストーンはビー玉に似た魔法のゲームで、失点するたびに、石がいっせいに負けたほうのプレイヤーの顔めがけて、いやな臭においのする液えき体たいを吹きかける)。それに、大きなガラスの球たまに入った完かん璧ぺきな銀ぎん河が系けいの動く模型もけいも、たまらない魅み力りょくだった。これがあれば、もう「天てん文もん学がく」の授じゅ業ぎょうを取る必要がなくなるかもしれない。しかし、「漏れ鍋」に来てから一週間後のこと、ハリーの決意をもっとも厳きびしい試練しれんにかけるものが、お気に入りの「高級クィディッチ用具店」に現れた。
店の中で、何やら覗き込こんでいる人ひと集だかりが気になって、ハリーもその中に割り込んでいった。興こう奮ふんした魔法使いや魔女の中でぎゅうぎゅう揉もまれながら、チラッと見えたのは新しく作られた陳ちん列れつ台だいで、そこにはハリーがいままで見たどの箒ほうきよりもすばらしい箒が飾られていた。
「まだ出たばかり……試し作さく品ひんだ……」四角い顎あごの魔法使いが仲間に説明していた。
「世界一速い箒なんだよね、父さん?」ハリーより年下の男の子が、父親の腕うでにぶら下がりながらかわいい声で言った。
「アイルランド・インターナショナル・サイドから、先日、この美び人じん箒ぼうきを七本もご注文いただきました!」店のオーナーが見物客に向かって言った。
「このチームは、ワールド・カップの本ほん命めいですぞ!」