「君たちだけに話したいことがあるんだ」
汽車がスピードを上げはじめた時、ハリーは、ロンとハーマイオニーに向かって囁ささやいた。
「ジニー、どっかに行ってて」ロンが言った。
「あら、ご挨あい拶さつね」ジニーは機嫌きげんを損そこね、ぷりぷりしながら離はなれていった。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは誰もいないコンパートメントを探して通路つうろを歩いた。どこも一いっ杯ぱいだったが、最さい後こう尾びにただ一つ空あいたところがあった。
客が一人いるだけだった。男が一人、窓まど側がわの席でぐっすり眠っていた。三人はコンパートメントの入口で中を確かめた。ホグワーツ特急はいつも生徒のために貸かし切きりになり、食べ物をワゴンで売りにくる魔女以外は、車中で大人おとなを見たことがなかった。
見知らぬ客は、あちこち継つぎの当たった、かなりみすぼらしいローブを着ていた。疲れ果てて、病んでいるようにも見えた。まだかなり若いのに、鳶とび色いろの髪かみは白髪しらが混じりだった。
「この人、誰だと思う?」窓から一番遠い席を取り、引き戸を閉め、三人が腰を落ち着けた時、ロンが声をひそめて聞いた。
「ルーピン先生」ハーマイオニーがすぐに答えた。
「どうして知ってるんだ?」
「カバンに書いてあるわ」
ハーマイオニーは男の頭の上にある荷物棚だなを指差ゆびさした。くたびれた小こ振ぶりのカバンは、きちんとつなぎ合わせた紐ひもでぐるぐる巻きになっていた。カバンの片かた隅すみに、R・J・ルーピン教きょう授じゅと、はがれかけた文字が押してあった。
「いったい何を教えるんだろ?」
ルーピン先生の青白い横顔を見て、顔をしかめながらロンが言った。
「決まってるじゃない」ハーマイオニーが小声で言った。
「空あいているのは一つしかないでしょ? 『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』よ」
ハリーもロンも、ハーマイオニーも、「闇の魔術に対する防衛術」の授じゅ業ぎょうを二人の先生から受けたが、二人とも一年しかもたなかった。この学科は呪のろわれているという噂うわさが立っていた。