ハリーは絵を見物していた。太った灰色葦毛あしげの馬がのんびりと草地に現れ、無む頓とん着ちゃくに草を食はみはじめた。ホグワーツの絵は、中身が動いたり、額がくを抜け出して互いに訪ほう問もんしたりする。ハリーはもう慣れっこになってはいたが、絵を見物するのはやはり楽しかった。まもなくずんぐりした小さい騎き士しが、鎧よろい兜かぶとをガチャつかせ、仔馬こうまを追いかけながら絵の中に現れた。鎧の膝ひざのところに草がついているところからして、いましがた落馬らくばした様子だ。
「ヤーヤー!」ハリー、ロン、ハーマイオニーを見つけて騎士が叫さけんだ。
「わが領りょう地ちに侵しん入にゅうせし、ふとどきな輩やからは何者ぞ! もしや、わが落馬を嘲あざけりに来きたるか? 抜け、汝なんじが刃やいばを。いざ、犬ども!」
小さな騎士が鞘さやを払い、剣つるぎを抜き、怒りに跳とびはねながら荒々しく剣を振り回すのを、三人は驚いて見つめた。なにしろ剣が長すぎて、一段と激はげしく振った拍ひょう子しにバランスを失い、騎士は顔から先に草地に突んのめった。
「大だい丈じょう夫ぶですか?」ハリーは絵に近づいた。
「下がれ、下賤げせんのホラ吹きめ! 下がりおろう、悪あく党とうめ!」
騎士は再び剣を握にぎり、剣にすがって立ち上がろうとしたが、刃は深々と草地に突き刺ささってしまった。騎士が金こん剛ごう力りきで引いても、二度と再び抜くことはできなかった。ついに、騎士は草地にドッカリ座り込み、兜の前面を押し上げて汗まみれの顔を拭ぬぐった。
「あの」騎士が疲ひ労ろう困こん憊ぱいしているのに乗じょうじて、ハリーが声をかけた。
「僕ぼくたち、北きた塔とうを探してるんです。道をご存知ぞんじではありませんか?」
「探たん求きゅうであったか!」
騎士の怒りはとたんに消え去ったようだ。鎧をガチャつかせて立ち上がると、騎士は一ひと声こえ叫んだ。
「我わが朋ほう輩ばいよ、我われに続け。求めよさらば見つからん。さもなくば突とつ撃げきし、勇ゆう猛もう果か敢かんに果てるのみ!」
剣つるぎを引ひっ張ぱり抜こうと、もう一度ムダなあがきをしたあと、太った仔馬こうまに跨またがろうとしてこれも失敗し、騎き士しはまた一ひと声こえ叫さけんだ。
「されば、徒か歩ちあるのみ。紳士しんし、淑しゅく女じょ諸しょ君くん! 進め! 進め!」