「僕ぼくです」しばらくしてハリーが答えた。
「わかりました」マクゴナガル先生は、きらりと光る目でハリーをしっかりと見た。
「では、ポッター、教えておきましょう。シビル・トレローニーは本校に着ちゃく任にんしてからというもの、一年に一人の生徒の死を予言よげんしてきました。いまだに誰一人として死んではいません。死の前ぜん兆ちょうを予言するのは、新しいクラスを迎むかえるときのあの方のお気に入りの流りゅう儀ぎです。私わたくしは同どう僚りょうの先生の悪口はけっして言いません。それでなければ――」
マクゴナガル先生はここで一いっ瞬しゅん言葉を切った。みんなは先生の鼻の穴が大きく膨ふくらむのを見た。それから先生は、少し落ち着きを取り戻もどして話を続けた。
「『占い学』というのは魔法の中でも一番不ふ正せい確かくな分野の一つです。私わたくしがあの分野に関しては忍にん耐たい強くないということを、皆さんに隠すつもりはありません。真の予よ言げん者しゃはめったにいません。そしてトレローニー先生は……」マクゴナガル先生は再び言葉を切り、ごく当たり前の調子で言葉を続けた。
「ポッター、私わたくしの見るところ、あなたは健康そのものです。ですから、今日の宿題を免めん除じょしたりいたしませんからそのつもりで。ただし、もしあなたが死んだら、提てい出しゅつしなくても結構です」
ハーマイオニーが吹き出した。ハリーはちょっぴり気分が軽くなった。トレローニー先生の教室の、赤い仄ほの暗ぐらい灯あかりとぼーっとなりそうな香こう水すいから離はなれてみれば、紅茶の葉の塊かたまりごときに恐れをなすのはかえっておかしいように思えた。しかし、みんながそう思ったわけではない。ロンはまだ心配そうだったし、ラベンダーは「でも、ネビルのカップはどうなの?」と囁ささやいた。
「変へん身しん術じゅつ」の授じゅ業ぎょうが終わり、三人はどやどやと昼食に向かう生徒たちに混まじって、大おお広ひろ間まに移動した。
「ロン、元気出して」
ハーマイオニーがシチューの大皿をロンのほうに押しながら言った。
「マクゴナガル先生のおっしゃったこと、聞いたでしょう」
ロンはシチューを自分の小皿に取り分け、フォークを手にしたが、口をつけなかった。
「ハリー」ロンが低い深しん刻こくな声で呼びかけた。
「君、どこかで大きな黒い犬を見かけたりしなかったよね?」
「ウン、見たよ」ハリーが答えた。「ダーズリーのとこから逃げたあの夜、見たよ」
ロンの取り落としたフォークがカタカタと音を立てた。
「たぶん野の良ら犬いぬよ」ハーマイオニーは落ち着きはらっていた。
気が触ふれたのか、とでも言いたげな目つきで、ロンがハーマイオニーを見た。