「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?」ハグリッドはがっくりきたようだった。
クラス全員がこっくりした。
「おまえさんたち、撫なぜりゃーよかったんだ」ハグリッドは、当たり前のことなのに、とでも言いたげだった。
ハグリッドはハーマイオニーの教科書を取り上げ、本を縛りつけていたスペロテープをビリリと剥はがした。本は噛かみつこうとしたが、ハグリッドの巨大な親指で背せ表びょう紙しをひと撫でされると、ブルッと震ふるえてパタンと開き、ハグリッドの手の中でおとなしくなった。
「ああ、僕ぼくたちって、みんな、なんて愚おろかだったんだろう!」マルフォイが鼻先で笑った。
「撫なぜりゃーよかったんだ! どうして思いつかなかったのかねぇ!」
「お……俺おれはこいつらが愉快ゆかいなやつらだと思ったんだが」
ハグリッドが自信なさそうにハーマイオニーに言った。
「ああ、恐ろしく愉快ですよ!」マルフォイが言った。
「僕たちの手を噛かみ切ろうとする本を持たせるなんて、まったくユーモアたっぷりだ!」
「黙だまれ、マルフォイ」
ハリーが静かに言った。ハグリッドはうなだれていた。ハリーはハグリッドの最初の授じゅ業ぎょうをなんとか成功させてやりたかった。
「えーと、そんじゃ」ハグリッドは何を言うつもりだったか忘れてしまったらしい。
「そんで……えーと、教科書はある、と。そいで……えーと……こんだぁ、魔ま法ほう生せい物ぶつが必要だ。ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ……」
ハグリッドは大おお股またで森へと入り、姿が見えなくなった。
「まったく、この学校はどうなってるんだろうねぇ」マルフォイが声を張はりあげた。
「あのウドの大たい木ぼくが教えるなんて、父ちち上うえに申し上げたら、卒そっ倒とうなさるだろうなぁ――」
「黙れ、マルフォイ」ハリーが繰くり返し言った。
「ポッター、気をつけろ。吸魂鬼ディメンターがおまえのすぐ後ろに――」
「オォォォォォォー!」
ラベンダー・ブラウンが放ほう牧ぼく場じょうの向こう側を指差ゆびさして、甲かん高だかい声を出した。