下がってもいいと言われたほうがいいご褒美ほうびなのにと思いながらも、ハリーはゆっくりとヒッポグリフに近より、手を伸ばした。何度か嘴を撫でると、ヒッポグリフはそれを楽しむかのようにとろりと目を閉じた。
クラス全員が拍はく手しゅした。マルフォイ、クラッブ、ゴイルだけは、ひどくがっかりしたようだった。
「よーし、そんじゃ、ハリー、こいつはおまえさんを背中に乗せてくれると思うぞ」
これは計画外だった。箒ほうきならお手の物だが、ヒッポグリフがまったく同じなのかどうか自信がない。
「そっから、登れ。翼つばさのつけ根んとっからだ。羽を引っこ抜かねえよう気をつけろ。いやがるからな……」
ハリーはバックビークの翼のつけ根に足をかけ、背中に飛び乗った。バックビークが立ち上がった。いったいどこにつかまったらいいのかわからない。目の前は一面羽で覆われている。
「そーれ行け!」ハグリッドがヒッポグリフの尻をパシンと叩たたいた。
何の前触まえぶれもなしに、四メートルもの翼がハリーの左右で開き、羽撃はばたいた。ヒッポグリフが飛ひ翔しょうする前に、辛かろうじて首の周まわりにしがみつく間まがあった。箒とは大違いだ。どちらが好きか、ハリーにははっきりわかる。ヒッポグリフの翼はハリーの両りょう脇わきで羽撃き、快かい適てきとはいえなかったし、両りょう脚あしが翼に引っかかり、いまにも振り落とされるのではと冷や冷やだ。艶つややかな羽毛うもうで指が滑すべり、かといって、もっとぎゅっとつかむことなどとてもできない。ニンバス2000のあの滑なめらかな動きとは違う。尻が翼に合わせて上下するヒッポグリフの背中の上で、いまやハリーは前にゆらゆら、後ろにぐらぐらするばかりだ。
バックビークはハリーを乗せて放ほう牧ぼく場じょうの上空を一周すると、地上をめざした。ハリーはこの瞬しゅん間かんを恐れていた。バックビークの滑らかな首が下を向くと同時に、ハリーはのけ反るようにした。嘴の上を滑り落ちるのではないかと思った。やがて、前後ばらばらな四し肢しが、ドサッと着地する衝しょう撃げきが伝わってきた。ハリーはやっとのことで踏ふみ止とどまり、再び上体をまっすぐにした。
「よーくできた、ハリー!」
ハグリッドは大声を出し、マルフォイ、クラッブ、ゴイル以外の全員が歓かん声せいをあげた。
「よーしと。ほかにやってみたい者もんはおるか?」