「僕ぼく、校内を歩くのは許されてるんだ」ハリーはむきになった。
「シリウス・ブラックは、ここではまだ吸魂鬼ディメンターを出し抜いてないだろ?」
そこで三人は宿題を片づけ、肖しょう像ぞう画がの抜け穴から外に出た。果たして外出していいものかどうか、完全に自信があったわけではないので、正面玄げん関かんまで誰にも会わなかったのはうれしかった。
まだ湿り気を帯びたままの芝生しばふが、黄たそ昏がれの中でほとんど真っ黒に見えた。ハグリッドの小屋にたどり着き、ドアをノックすると、中から「入ってくれ」と呻うめくような声がした。
ハグリッドはシャツ姿で、洗い込まれた白木しらきのテーブルの前に座っていた。ボアハウンド犬のファングがハグリッドの膝ひざに頭を乗せている。ひと目見ただけで、ハグリッドが相当深ふか酒ざけしていたことがわかる。バケツほどもある錫すず製せいのジョッキを前に、ハグリッドは焦しょう点てんの合わない目つきで三人を見た。
「こいつぁ新しん記き録ろくだ」三人が誰かわかったらしく、ハグリッドがどんよりと言った。
「一日しかもたねえ先生なんざ、これまでいなかったろう」
「ハグリッド、まさか、クビになったんじゃ!」ハーマイオニーが息を呑のんだ。
「まーだだ」ハグリッドはしょげきって、何が入っているやら大ジョッキをぐいと傾けた。
「だけんど、時間の問題だわ、な。マルフォイのことで……」
「あいつ、どんな具合?」三人とも腰掛こしかけながら、ロンが聞いた。「大したことないんだろ?」
「マダム・ポンフリーができるだけの手当てをした」ハグリッドがぼんやりと答えた。「だけんど、マルフォイはまだ疼うずくと言っとる……包ほう帯たいぐるぐる巻きで……呻うめいとる……」
「ふりしてるだけだ」ハリーが即座そくざに言った。
「マダム・ポンフリーなら何でも治なおせる。去年なんか、僕ぼくの片かた腕うでの骨を再生させたんだよ。マルフォイは汚きたない手を使って、怪け我がを最大限に利用しようとしてるんだ」
「学校の理り事じたちに知らせがいった。当然な」ハグリッドは萎しおれきっている。
「俺おれがはじめっから飛ばしすぎたって、理事たちが言うとる。ヒッポグリフはもっとあとにすべきだった。……レタス食い虫フロバーワームかなんかっから始めていりゃ……イッチ番の授じゅ業ぎょうにはあいつが最高だと思ったんだがな……みんな俺が悪い……」