暗い廊下を、ズルズルと何かがフランクのほうへと這はってくる。ドアの隙すき間まから細長く漏もれる暖だん炉ろの灯あかりに近づくその何かを見て、フランクは震ふるえ上がった。優ゆうに四メートルはある巨大な蛇へびだった。床を厚く覆おおった埃ほこりの上に太い曲がりくねった跡あとを残しながら、クネクネと近づいてくるその姿を、フランクは恐怖で身動きもならず見つめていた――どうすればよいのだろう? 逃げ道は一つ、二人の男が殺人を企てているその部屋しかない。しかし、このまま動かずにいれば、間違いなく蛇に殺される――。
決めかねている間に、蛇はそばまでやってきた。そして、信じられないことに、奇き跡せき的てきにそのまま通り過ぎていった。ドアの向こうの冷たい声の主が出す、シュー、シュー、シャーッ、シャーッという音をたどり、まもなく菱ひし形がた模も様ようの尾がドアの隙間から中へと消えていった。
フランクの額ひたいには汗が噴ふき出し、杖を握った手が震えていた。部屋の中では冷たい声がシューシュー言い続けている。フランクはふと奇妙な、ありえない考えにとらわれた……この男は蛇と話ができるのではないか。
何事が起こっているのか、フランクにはわからなかった。湯たんぽを抱えてベッドに戻りたいと、ひたすらそれだけを願った。自分の足が動こうとしないのが問題だった。震えながらその場に突っ立ち、何とか自分を取り戻そうとしていたそのとき、冷たい声が急に普通の言葉に変わった。
「ワームテール、ナギニがおもしろい報しらせを持ってきたぞ」
「さ――さようでございますか、ご主人様」ワームテールが答えた。
「ああ、そうだとも」冷たい声が言った。「ナギニが言うには、この部屋のすぐ外に老おいぼれマグルが一人立っていて、我々の話を全部聞いているそうだ」
身を隠す間もなかった。足音がして、部屋のドアがパッと開いた。