ハリーは固く目を閉じて、ヴォルデモートの姿を思い出そうとしたが、できない……ヴォルデモートの椅子がくるりとこちらを向き、そこに座っている何物かが見えた。ハリー自身がそれを見た瞬間しゅんかん、恐ろしい戦せん慄りつで目が覚めた。それだけは覚えている……それとも傷痕の痛みで目が覚めたのだろうか?
それに、あの老人は誰だったのだろう? たしかに年老いた男がいた。その男が床に倒れるのを、ハリーは見た。何だかすべて混乱している。ハリーは両手に顔を埋うずめて、いまいる寝室の様子を遮さえぎるようにし、あの薄うす明あかりの部屋のイメージをしっかりとらえようとした。
しかし、とらえようとすればするほど、まるで両手に汲くんだ水が漏もれるように、細かなことが指の間からこぼれ落ちていった……ヴォルデモートとワームテールが誰かを殺したと話していた。誰だったかハリーは名前を思い出せなかった……それにほかの誰かを殺す計画を話していた……僕ぼくを……。
ハリーは顔から手を離し、目を開けて自分の部屋をじっと見回した。何か普通ではないものを見つけようとしているかのように。たまたまこの部屋には、異常なほどたくさん普通ではないものがある。大きな木のトランクが開けっぱなしでベッドの足あし下もとに置いてあり、中から大おお鍋なべや箒ほうき、黒いローブの制服、呪じゅ文もん集しゅうが数冊覗のぞいていた。机の上に大きな鳥とり籠かごがあり、いつもなら雪のように白いふくろうのヘドウィグが止まっているのだが、いまは空からっぽだった。鳥籠に占領せんりょうされていない机の隅すみに、羊よう皮ひ紙しの巻まき紙がみが散らばっている。
ベッド脇わきの床には、寝る前に読んでいた本が開いたまま置かれていた。本の中の写真はみな動き回っている。鮮あざやかなオレンジ色のローブを着た選手たちが、箒ほうきに乗り赤いボールを投げ合いながら、写真から出たり入ったりしていた。
ハリーは本のところまで歩いていき、拾い上げた。ちょうど選手の一人が十五メートルの高さにあるゴール・リングに鮮やかなシュートを決めて得点したところだった。ハリーはピシャリと本を閉じた。クィディッチでさえ――ハリーがこれぞ最高のスポーツだと思っているものでさえ――いまはハリーの気を逸そらせてはくれなかった。「キャノンズと飛ぼう」をベッド脇の小机に置くと、ハリーは部屋を横切り窓のカーテンを開け、下の通りの様子を窺うかがった。