プリベット通りは、土曜日の明け方に、郊こう外がいのきちんとした町並みはこうでなければならない、といった模も範はん的てきなたたずまいだった。どの家のカーテンも閉まったままだ。まだ暗い街まちには、見渡すかぎり、人っ子一人、猫の子一匹いなかった。
でも、何か……なにか……ハリーは何だか落ち着かないままベッドに戻り、座り込んでもう一度傷きず痕あとを指でなぞった。痛みが気になったわけではない。痛みや怪け我がなら、ハリーはいやというほど味わっていた。一度は右腕の骨が全部なくなり、一ひと晩ばん痛い思いをして再生させたこともある。それからほどなく、その同じ右腕を三十センチもある毒どく牙がが刺さし貫つらぬいた。飛行中の箒から十五メートルも落下したのはまさに昨年のことだ。とんでもない事故や怪我なら、もう慣れっこだった。ホグワーツ魔ま法ほう魔ま術じゅつ学がっ校こうに学び、しかも、なぜか知らないうちに事件を呼び寄せてしまうハリーにとって、それは避さけられないことだった。
違うんだ。何か気になるのは、前回傷が痛んだ原因が、ヴォルデモートが近くにいたからなんだ……しかし、ヴォルデモートがいま、ここにいるはずがない……ヴォルデモートがプリベット通りに潜ひそんでいるなんて、バカげた考えだ。ありえない……。
ハリーは静寂しじまの中で耳を澄すませた。階段の軋きしむ音、マントの翻ひるがえる音が聞こえるのではと、どこかでそんな気がしたのだろうか? ちょうどそのとき、隣となりの部屋から、いとこのダドリーが巨大ないびきをかく音が聞こえ、ハリーはびくりとした。
ハリーは心の中で頭かぶりを振った。なんてバカなことを……この家にいるのは、ハリーのほかにバーノンおじさん、ペチュニアおばさんとダドリーだけだ。悩なやみも痛みもない夢を貪むさぼり、全員まだ眠りこけている。ハリーは、ダーズリー一家が眠っているときがいちばん気に入っていた。起きていたからといって、ハリーのために何かをしてくれるわけではない。