ロンの父親は魔ま法ほう省しょうの「マグル製せい品ひん不ふ正せい使し用よう取とり締しまり局きょく」に勤つとめるれっきとした魔法使いだが、ハリーの知るかぎり、呪いに関してはとくに専せん門もん家かではなかった。いずれにせよ、たった数分、傷が疼いたからといって自分がびくびくしているなどと、ウィーズリー家の全員に知られたくはない。ウィーズリー夫人はハーマイオニーよりも大騒ぎして心配するだろうし、ロンの双ふた子ごの兄、十六歳になるフレッドとジョージは、ハリーを意気地なしだと思うかもしれない。ウィーズリー一家はハリーが世界中でいちばん好きな家族だった。明あ日すにもウィーズリー家から泊とまりにくるようにと招待しょうたいが来るはずだ(ロンが何かクィディッチ・ワールドカップのことを話していたし)。せっかくの滞たい在ざい中ちゅうに、傷痕はどうかと心配そうに何度も聞かれたりするのが、ハリーは何だかいやだった。
ハリーはこぶしで額ひたいを揉もんだ。ほんとうは(自分でそうだと認めるのは恥ずかしかったが)、誰か――父親や母親のような人がほしかった。大人おとなの魔法使いで、こんなばかなことを、と思わずにハリーが相談できる誰か、自分のことを心配してくれる誰か、闇やみの魔ま術じゅつの経験がある誰か……。
するとふっと答えが思い浮かんだ。こんな簡単な、こんな明白なことを思いつくのに、こんなに時間がかかるなんて――シリウスだ。
ハリーはベッドから飛び降り、急いで部屋の反対側にある机に座った。羊よう皮ひ紙しを一ひと巻まき引き寄せ、鷲わし羽ば根ねペンにインクを含ふくませ、「シリウス、元気ですか」と書き出した。そこでペンが止まった。どうやったらうまく説明できるのだろう。はじめからシリウスを思い浮かべなかったことに、ハリーは自分でもまだ驚いていた。しかし、そんなに驚くことではないのかもしれない――そもそも、シリウスが自分の名な付づけ親おやだと知ったのはほんの二ヵ月前のことなのだから。