シリウスが、それまでハリーの人生にまったく姿を見せなかった理由は、簡単だった――シリウスはアズカバンにいたのだ。吸ディ魂メン鬼ターという、眼めを持たない、魂たましいを吸すい取る鬼おにに監かん視しされた、恐ろしい魔ま法ほう界かい監かん獄ごくのアズカバンだ。そこを脱だつ獄ごくしたシリウスを追って、吸魂鬼はホグワーツにやってきた。しかし、シリウスは無実だった――殺人の罪に問われていたが、真しんにその殺人を犯おかしたのはヴォルデモートの家来、ワームテールだった。ワームテールは死んだのだとほとんどみんながそう思っている。しかし、ハリー、ロン、ハーマイオニーは、そうでないことを知っている。先学期、三人は真正面からワームテールと対面したのだ。でも三人の話を信じたのはダンブルドア校長だけだった。
あの輝かがやかしい一時間の間だけ、ハリーはついにダーズリーたちと別れることができると思った。シリウスが、汚お名めいを濯そそいだら一いっ緒しょに暮らそうとハリーに言ってくれたからだ。しかし、そのチャンスはたちまち奪うばわれてしまった――ワームテールを、魔ま法ほう省しょうに引き渡す前に逃のがしてしまったのだ。シリウスは身を隠さなければ命を落とすところだった。ハリーは、シリウスがバックビークという名のヒッポグリフの背に乗って逃とう亡ぼうするのを助けた。それ以来ずっと、シリウスは逃亡生活を続けている。ワームテールさえ逃さなかったらシリウスと暮らせたのにという思いが、夏休みに入ってずっとハリーの頭を離れなかった。もう少しでダーズリーのところから永久に逃れることができたのにと思うと、この家に戻るのは二倍も辛つらかった。
一緒に暮らせはしないが、それでも、シリウスはハリーの役に立っていた。学用品を全部自分の部屋に持ち込むことができたのもシリウスのお陰だった。これまではダーズリー一家が決してそれを許してくれなかった。常つね々づねハリーをなるべく惨みじめにしておきたいという思いがある上に、ハリーの力を恐れていたので、ダーズリーたちは夏休みになると、ハリーの学校用のトランクを階段下の物もの置おきに入れて鍵かぎをかけておいたものだった。ところが、あの危険な殺さつ人じん犯はんがハリーの名付け親だとわかると、ダーズリーたちの態度が一いっ変ぺんした――シリウスは無実だとダーズリーたちに告げるのを、ハリーは都合よく忘れることにした。