プリベット通りに戻ってから、ハリーはシリウスの手紙を二通受け取った。二回とも、ふくろうが届けたのではなく(魔法使いは普通ふくろうを使う)、派は手でな色をした大きな南国の鳥が持ってきた。ヘドウィグはケバケバしい侵しん入にゅう者しゃが気に入らず、その鳥が帰き路ろに着く前に自分の水受け皿から水を飲むのをなかなか承しょう知ちしなかった。
ハリーは、この鳥たちが気に入っていた。椰や子しの木や白い砂浜の気分にさせてくれるからだ。シリウスがどこにいようとも(手紙が途中で他人の手に渡ることも考えられるので、シリウスは居い場ば所しょを明かさなかった)、元気で暮らしてほしいとハリーは願った。強烈きょうれつな太陽の光の下では、なぜか吸きゅう魂こん鬼きが長生きしないような気がした。たぶん、それでシリウスは南へ行ったのだろう。
シリウスの手紙は、ベッド下の床板の緩ゆるくなったところに隠してあった。この隙すき間まはとても役に立つ。二通とも元気そうで、必要なときにはいつでも連れん絡らくするようにと念ねん押おししていた。そうだ。いまこそシリウスが必要だ。よし……。
夜明け前の冷たい灰色の光が、ゆっくりと部屋に忍び込み、机の灯あかりが薄うす暗ぐらくなるように感じられた。太陽が昇り、部屋の壁かべが金色に映はえ、バーノンおじさんとペチュニアおばさんの部屋から人の動く気け配はいがしはじめたとき、ハリーはクシャクシャに丸めた羊よう皮ひ紙しを片づけ、机をきれいにして、いよいよ書き終えた手紙を読み直した。
シリウスおじさん、元気ですか。
この間はお手紙をありがとう。あの鳥はとても大きくて、窓から入るのがやっとでした。
こちらは何も変わっていません。ダドリーのダイエットはあまりうまくいっていません。昨日きのう、ダドリーがこっそりドーナッツを部屋に持ち込もうとするのを、おばさんが見つけました。こんなことが続くようなら小こ遣づかいを減らさないといけなくなると、二人がダドリーに言うと、ダドリーはものすごく怒って、プレイステーションを窓から投げ捨てました。これはゲームをして遊ぶコンピューターのようなものです。バカなことをしたものです。だって、もうダドリーの気を紛まぎらすものは何もないんです。メガ・ミューチレーション・パート3で遊べなくなってしまったのですから。
僕は大だい丈じょう夫ぶです。それというのも、僕が頼めばあなたがやってきて、ダーズリー一家をコウモリに変えてしまうかもしれないと、みんな怖こわがっているからです。
でも、今け朝さ、気味の悪いことが起こりました。傷きず痕あとがまた痛んだのです。この前痛んだのは、ヴォルデモートがホグワーツにいたからでした。でも、いまは僕の身近にいるとは考えられません。そうでしょう? 呪のろいの傷痕って、何年もあとに痛むことがあるのですか?
ヘドウィグが戻ってきたら、この手紙を持たせます。いまは餌えさを捕りに出かけています。
バックビークによろしく。
ハリーより
よし、これでいい、とハリーは思った。夢のことを書いてもしょうがない。ハリーは、あんまり心配しているように思われたくはなかった。羊よう皮ひ紙しを畳たたみ、机の脇わきに置き、ヘドウィグが戻ったらいつでも出せるようにした。それから立ち上がり、伸びをして、もう一度洋よう箪だん笥すを開けた。扉裏とびらうらの鏡に映る自分を見もせず、ハリーは朝食に下りていくために着き替がえはじめた。