「ハリーがさよならと言ったんですよ。聞こえなかったんですか?」
「いいんです」ハリーがウィーズリー氏に言った。「ほんとに、そんなことどうでもいいんです」
ウィーズリー氏はハリーの肩をつかんだままだった。
「来年の夏まで甥おいごさんに会えないんですよ」ウィーズリー氏は軽い怒りを込めてバーノンおじさんに言った。「もちろん、さよならと言うのでしょうね」
バーノンおじさんの顔が激はげしく歪ゆがんだ。居い間まの壁かべを半分吹き飛ばしたばかりの男から、礼れい儀ぎを説教せっきょうされることに、ひどい屈辱くつじょくを感じているらしい。
しかしウィーズリー氏の手には杖つえが握られたままだ。バーノンおじさんの小さな目がチラッと杖を見た。それから口く惜やしそうに「それじゃ、さよならだ」と言った。
「じゃあね」ハリーはそう言うと、エメラルド色の炎ほのおに片足を入れた。暖かい息を吹きかけられるような心ここ地ちよさだ。そのとき突然背はい後ごで、ゲエゲエとひどく吐はく声が聞こえ、ペチュニアおばさんの悲ひ鳴めいが上がった。
ハリーが振り返ると、ダドリーはもはや両親の背後に隠れてはいなかった。コーヒーテーブルの脇わきに膝ひざをつき、三十センチほどもある紫むらさき色のヌルヌルしたものを口から突き出して、ゲエゲエ、ゲホゲホ咽むせ込こんでいた。一瞬いっしゅん何だろうと当とう惑わくしたが、ハリーはすぐにその三十センチの何やらがダドリーの舌だとわかった――そして、色いろ鮮あざやかなヌガーの包み紙が一枚、ダドリーのすぐ前の床に落ちているのを見つけた。
ペチュニアおばさんはダドリーの脇に身を投げ出し、膨ふくれ上がった舌の先をつかんでもぎ取ろうとした。当然、ダドリーは喚わめき、いっそうひどく咽込み、母親を振り放そうともがいた。バーノンおじさんが大声で喚くわ、両腕を振り回すわで、ウィーズリー氏は、何を言おうにも大声を張り上げなければならなかった。