ハリーは「姿現わし」が難しい術じゅつだということは知っていた。ある場所から姿を消して、そのすぐあとに別な場所に現れる術だ。
「それじゃ、連中はまだベッドかよ?」フレッドがオートミールの皿を引き寄せながら、不ふ機き嫌げんに言った。「俺おれたちはなんで『姿現わし』術を使っちゃいけないんだい?」
「あなたたちはまだその年ねん齢れいじゃないのよ。テストも受けてないでしょ」おばさんがピシャリと言った。
「ところで女の子たちは何をしてるのかしら?」
おばさんはせかせかとキッチンを出ていき、階段を上がる足音が聞こえてきた。
「『姿現わし』はテストに受からないといけないの?」ハリーが聞いた。
「そうだとも」切符をジーンズの尻しりポケットにしっかりとしまい込みながら、ウィーズリーおじさんが答えた。
「この間も、無む免めん許きょで『姿現わし』術を使った魔法使い二人に、『魔ま法ほう運うん輸ゆ部ぶ』が罰ばっ金きんを科かした。そう簡単じゃないんだよ、『姿現すがたあらわし』は。きちんとやらないと、厄やっ介かいなことになりかねない。その二人は術じゅつを使ったはいいが、バラけてしまった」
ハリー以外のみんながギクリとのけ反った。
「あの――バラけたって?」ハリーが聞いた。
「体の半分が置いてけぼりだ」ウィーズリーおじさんがオートミールにたっぷり糖とう蜜みつをかけながら答えた。「当然、にっちもさっちもいかない。どっちにも動けない。『魔ま法ほう事じ故こリセット部ぶ隊たい』が来て、何とかしてくれるのを待つばかりだ。いやはや、事じ務む的てきな事じ後ご処しょ理りが大変だったよ。置き去りになった体のパーツを目もく撃げきしたマグルのことやらなんやらで……」
ハリーは突然、両脚と目玉が一個、プリベット通りの歩道に置き去りになっている光景を思い浮かべた。
「助かったんですか?」ハリーは驚いて聞いた。
「そりゃ、大だい丈じょう夫ぶ」おじさんはこともなげに言った。
「しかし、相当の罰ばっ金きんだ。それに、あの連中はまたすぐに術を使うということもないだろう。『姿現わし』は悪いた戯ずら半分にやってはいけないんだよ。大の大人おとなでも、使わない魔法使いが大勢いる。箒ほうきのほうがいいってね――遅いが、安全だ」