「ハリー、わかってないね ダンブルドアはいますぐ行動を起こさなきゃならないんだ。なにせ、魔法省は独自のやり方で未成年者の魔法使用を見つける。もう見つかっちまってるだろう。きっとそうさ」
「だけど、僕、吸きゅう魂こん鬼きを追い払ったんだ。魔法を使わなきゃならなかった――魔法省は、吸魂鬼がウィステリア・ウォークを浮遊ふゆうして、何をやってたのか、そっちのほうを心配すべきだ。そうでしょう」
「ああ、あんた、そうだったらいいんだけど、でも残念ながら――マンダンガス・フレッチャーめ、殺してやる」
バシッと大きな音がして、酒さけ臭くささとむっとするタバコの臭いがあたりに広がり、ボロボロの外がい套とうを着た、無ぶ精しょうひげのずんぐりした男が、目の前に姿を現した。ガニ股またの短足、長い赤茶色のざんばら髪、それに血走った腫はれぼったい目が、バセット・ハウンド犬の悲しげな目つきを思わせた。手には何か銀色のものを丸めて握にぎり締しめている。ハリーは、それが「透とう明めいマント」だとすぐにわかった。
「どーした、フィギー」男はフィッグばあさん、ハリー、ダドリーと順に見つめながら言った。「正体がばれねえようにしてるはずじゃねえのかい」
「おまえをばらしてやる」フィッグばあさんが叫さけんだ。「吸きゅう魂こん鬼きだ。この碌ろくでなしの腐くされ泥どろ棒ぼう」
「吸魂鬼」マンダンガスが仰ぎょう天てんしてオウム返しに言った。「吸魂鬼 ここにかい」
「ああ、ここにさ。役立たずのコウモリの糞クソめ。ここにだよ」フィッグばあさんがキンキン声で言った。「吸魂鬼が、おまえの見張ってるこの子を襲おそったんだ」
「とんでもねえこった」マンダンガスは弱々しくそう言うと、フィッグばあさんを見て、ハリーを見て、またフィッグばあさんを見た。「とんでもねえこった。おれは――」
「それなのに、おまえときたら、盗品の大おお鍋なべを買いに行っちまった。あたしゃ、行くなって言ったろう 言ったろうが」
「おれは――その、あの――」マンダンガスはどうにも身の置き場がないような様子だ。「その――いい商売のチャンスだったもんで、なんせ――」
フィッグばあさんは手て提さげ袋を抱えたほうの腕を振り上げ、マンダンガスの顔と首のあたりを張り飛ばした。ガンッという音からして、袋はキャット・フーズの缶かん詰づめが詰まっているらしい。
「痛え――やーめろ――やーめろ、このくそ婆ばばあ だれかダンブルドアに知らせねえと」
「その――とおり――だわい」
フィッグばあさんは缶詰入り手提げ袋をぶん回し、どこもかしこもおかまいなしにマンダンガスを打ぶった。
「それに――おまえが――知らせに――行け――そして――自分で――ダンブルドアに――言うんだ――どうして――おまえが――その場に――いなかったのかって」
「とさかを立てるなって」マンダンガスは身をすくめて腕で顔を覆おおいながら言った。「行くから。おれが行くからよう」
そしてまたバシッという音とともに、マンダンガスの姿が消えた。