「坊主、誰にやられた 名前を言いなさい。捕つかまえてやる。心配するな」
「しっ バーノン、何か言おうとしてますよ ダドちゃん、なあに ママに言ってごらん」
ハリーは階段の一番下の段に足を掛かけた。そのとき、ダドリーが声を取り戻した。
「あいつ」
ハリーは階段に足をつけたまま凍こおりつき、顔をしかめ、爆発に備そなえて身構みがまえた。
「小僧こぞう こっちへ来い」
恐れと怒りが入いり交まじった気持で、ハリーはゆっくり足を階段から離はなし、ダーズリー親子に従った。
徹てっ底てい的てきに磨みがき上げられたキッチンは、表が暗かっただけに、妙みょうに現実離れして輝かがやいていた。ペチュニアおばさんは、真まっ青さおでじっとりした顔のダドリーを椅い子すのほうに連れて行った。バーノンおじさんは水切り籠かごの前に立ち、小さい目を細くしてハリーを睨ねめつけていた。
「息子に何をした」おじさんは脅おどすように唸うなった。
「なんにも」ハリーには、バーノンおじさんがどうせ信じないことがはっきりわかっていた。
「ダドちゃん、あの子が何をしたの」ペチュニアおばさんは、ダドリーの革ジャンの前をスポンジできれいに拭ぬぐいながら、声を震ふるわせた。「あれ――ねえ、『例のあれ』なの あの子が使ったの あの子のあれを」
ダドリーがゆっくり、びくびくしながら頷うなずいた。
ペチュニアおばさんが喚わめき、バーノンおじさんが拳こぶしを振り上げた。
「やってない」ハリーが鋭するどく言った。「僕はダドリーになんにもしていない。僕じゃない。あれは――」
ちょうどそのとき、コノハズクがキッチンの窓からサーッと入ってきた。バーノンおじさんの頭のてっぺんをかすめ、キッチンの中をスイーッと飛んで、嘴くちばしにくわえていた大きな羊よう皮ひ紙しの封筒をハリーの足あし元もとに落とし、優雅ゆうがに向きを変え、羽の先せん端たんで冷れい蔵ぞう庫この上を軽く払い、そして、再び外へと滑かっ空くうし、庭を横切って飛び去った。