「坊主ぼうず、続けるんだ」バーノンおじさんが言った。「あいつは何をした」
「坊や、話して」ペチュニアおばさんが囁ささやいた。
「杖つえをぼくに向けた」ダドリーがモゴモゴ言った。
「ああ、向けた。でも、僕、使っていない――」ハリーは怒って口を開いた。しかし――
「黙だまって」バーノンおじさんとペチュニアおばさんが同時に吠ほえた。
「坊主、続けるんだ」バーノンおじさんが口ひげを怒りで波打たせながら繰くり返して言った。
「全部真っ暗になった」ダドリーはかすれ声で、身震みぶるいしながら言った。「みんな真っ暗。それから、ぼく、き、聞いた……なにかを。ぼ、ぼくの頭の中で」
バーノンおじさんとペチュニアおばさんは恐きょう怖ふそのものの目を見合わせた。二人にとって、魔法がこの世で一番嫌いなものだが――その次に嫌いなのが、散さん水すいホース使し用よう禁止きんしを自分たちよりうまくごまかすお隣となりさんたちだ――ありもしない声が聞こえるのは、間違いなくワースト・テンに入る。二人は、ダドリーが正しょう気きを失いかけていると思ったに違いない。
「かわい子ちゃん、どんなものが聞こえたの」ペチュニアおばさんは蒼そう白はくになって目に涙を浮かべ、囁ささやくように聞いた。
しかし、ダドリーは何も言えないようだった。もう一度身震いし、でかいブロンドの頭を横に振った。最初のふくろうが到とう着ちゃくしたときから、ハリーは恐怖で無感覚になってしまっていたが、それでもちょっと好こう奇き心しんが湧わいた。吸きゅう魂こん鬼きは、誰にでも人生最悪のときをまざまざと思い出させる。甘やかされ、わがままでいじめっ子のダドリーには、いったい何が聞こえたのだろう
「坊主、どうして転んだりした」バーノンおじさんは不自然なほど静かな声で聞いた。重病人の枕まくら許もとでなら、おじさんはこんな声を出すのかもしれない。
「つ、躓つまずいた」ダドリーが震ふるえながら言った。「そしたら――」
ダドリーは自分のだだっ広い胸を指差ゆびさした。ハリーにはわかった。ダドリーは、望みや幸福感が吸い取られてゆくときの、じっとりした冷たさが肺を満たす感覚を思い出しているのだ。